デコボコの道なき道を進み、ようやくたどり着いたのは四方を森林に囲まれた場所に広がる有機茶畑。ここで自然のちからを最大限に生かした方法で、丹精込めて茶の樹を育てているのが「善光園」さんです。現地を訪れたのは新芽の薄緑色がとても美しい4月下旬で、茶摘みが始まる直前というタイミングでした。

このあたりの竹林にはイノシシが生息しているとのことで、足跡や、タケノコを掘って食べた形跡も見受けられました。よく見ると、畑のところどころに蕨や雑草なども見られます。雑草も虫も動物も含め、多くの生物がここで共栄共存し、循環しています。

自然栽培の茶畑ですが、あえて何もしないのではなく、茶の樹の成長に影響がないように適宜草取りもしています。気づけばいつの間に大きく成長してしまう雑草。それでももちろん、除草剤などは一切使用しません。また、お茶の新芽はとてもデリケートです。風に吹かれて周囲の木々から飛び落ちてくる枯葉などにも気を使い、柔らかな新芽を傷めないよう、ひとつひとつ、優しく手で取り除いています。

生産者の増田さん

平成3年に家業を引き継ぎ、お茶の栽培を始めた増田さん。農作業中の体調不良から、農薬の怖さを実感したことが、有機栽培に取り組むことになったきっかけだそう。

慣行栽培から有機栽培へ。栽培方法はどうやって学んだのか?と聞くと、

「既に取り組んでいた有機農業の先駆者たちを訪ねて教えを乞うたり、本を読んだりしたかな。お茶であろうと野菜であろうと、視点はそんなに変わらないからね。」

という言葉が返ってきました。

試行錯誤しながら、地道にノウハウを蓄積してきた増田さん。初めからすべてうまくいっていたわけではなく、虫や病気にやられて夏のお茶の収穫がゼロになってしまったこともあったそうです。それでも5年、10年と続けるうちに、徐々に土にも変化が現れてきます。様々な虫たちや鳥なども畑に戻ってきたことで土壌に団粒構造が生まれ、空気を通しやすく水はけの良い、ふわふわと柔らかい土に。この良質な土壌にしっかりとした良い根を張る茶の樹は、大雨や台風の時でも耐えることができます。

無農薬を目指したのが、平成5年頃。その後有機認証を取得し、平成16年から自然栽培にも取り組んできました。

最近認証を取らない自然栽培の生産者の方も多いと感じていたため、何故あえて自然栽培の畑も有機JAS認証を取ったのかと尋ねてみたところ、「何故って言われても、前からとってたからねぇ・・。」と、特別なこととはとらえていない様子。それでも、やはり有機認証がつくと自然栽培と思われないから、あえてつけてほしくない、という声も聞こえてきたそうです。

無農薬だからと言って高く売れるわけではないし、有機認証をもって正当性を主張するというわけでもありません。それでも、認証を取得することによって、記録をきちんとつけ管理するようになったのも良かったことのひとつ。なによりも、他の産地やほかの生産者の荒茶を混ぜられることなく、自分たちが育てたお茶がそのままダイレクトに消費者へと届くことは嬉しいことだと、増田さんは語ります。

「最近は急須がない家庭が増えたよね。」

と嘆く増田さん。

今や家庭の食卓には、急須で入れたお茶ではなくペットボトルのお茶が出される時代。また、時代とともに、お茶の味は香りより「甘さ」や「コク」「うまみ」が重視されるようになりました。そのため、消費者ニーズに合う品種のお茶が選ばれるようになり、大量に肥料を入れることで甘みやうまみを向上させた、画一化された品質のお茶が今の市場を占めています。

日本で最も多く栽培され、最も普及率が高いお茶の品種が「やぶきた」。お茶の繁殖は挿し木によって行われるのが主流です。親木と全く同じ遺伝子を持つ、優良で均一な茶の樹は、新芽を同時期に計画的に収穫できる、また品質が安定しているなどの大きな利点もありますが、一方で品質や価格の差別化がしにくく、風味の画一化等も招くことも懸念されています。

善光園さんでは「実生のお茶」も育てています。

実生(みしょう)とは、植物を種から育てる事。種からお茶の木を育てるにはとても長い時間がかかり、また、茶には自家不和合性という性質があることから、同じ品種では受粉しても受精しません。つまり、一本の木から実は成らず、必ず他の木との受精により種子ができるため、さまざまな遺伝子を持つ茶樹が同じ茶園に混在することになります。実生の茶の樹は、太い根を地中深くまで伸ばすため、干ばつなどにも強く、非常に強い生命力を持ち、豊かな多様性を持っています。

実生の茶園は、葉っぱの濃淡がバラバラだったり、太い物、細い物、長い物、短い物など、形状や性質にばらつきがでます。そのため収穫作業なども効率が悪く、品質や収量も異なりますが、この個性ある茶樹が混ざり合う畑から出来たお茶は、均一ではないからこそ、その土地特有の個性豊かな味わいを生み出しています。

これぞまさに「昔ながらのお茶の味」。是非、急須で入れていただきたいですね。

▽善光園
http://zenkouen.shop-pro.jp/

この記事を書いた人

オーガニックプレス編集長 さとうあき

インターネットが急速に世に広まりつつあった2002年、長年身を置いてきたオーガニック業界からEC業界へと転身。リアル店舗時代からIT化時代の変遷、発展への過程を経験し、独自の現場的視点をもつ。2010年、業界先駆けとなる“オーガニック情報サイト”誕生を実現した。「オーガニックプレス」はその確かな目で選択された情報を集約し蓄積。信頼性の高いコンテンツを提供し続けている。

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