昨年秋、ぼくは改めてIFOAM(国際有機農業運動連盟)の地域組織NPO法人IFOAMジャパンの理事長に就任した。2002年ぼくと数人で呼びかけ設立した団体だった。
1997年ごろ当時有機農業の基準づくりが国際的に議論になっていた。今とは真逆で、世界は欧米を中心にグローバリズムへ加速度的に転換し始めた時期である。関税の撤廃もそうだが、国際的貿易をスムーズにするため”各国の食品基準のレベルを合わせる“ハーモナイゼーション”という言葉が広がった。
日本の食品基準は世界の中でも比較的厳しかったが、特にアメリカからの要求によって非関税障壁も下げるため輸入に際する添加物、ホルモン剤、農薬などの使用、残留に関する基準レベルを緩めていった経緯がある。そして世界の食品規格の調和を図る国連機関であるコーデックス委員会“がフル回転し、1999年に有機農業の定義(理念)、原則、および有機農業ガイドラインを作成し、加盟国はそれに合わせ基準を作成することが義務となり、日本も同年食品表示法を活用し、理念や原則に言及せず、手っ取り早く生産規定を軸に作成したのが現在の有機JAS制度である。IFOAMもコーデックス委員会も定義(理念)、原則を明確にしている。
そのコーデックス委員会の有機農業ガイドラインの作成の土台になったのが、長く世界の有機農業運動をリードし、世界で約100カ国、800以上の団体が加盟する国際NGOのIFOAM(国際有機農業運動連盟)である。1990年代のグローバル化時代、アメリカ、ヨーロッパ大陸、あるいはアフリカや中東、さらには日本やインドなどを含むアジアモンスーン地帯など、それぞれ気候風土の違うところを一つの有機基準にするのは無理があると、IFOAMジャパンの前身IFOAMリエゾンも地域組織IFOAMアジアづくりを提案し、らでぃっしゅぼーや、大地を守る会、生協など日本型の自主基準づくりを展開した経緯がある。
現在、IFOAMもまたPGS(参加型保証システム)を通して、地域の基準認証システムの展開に注力する時代を迎え、さらには環境再生型有機農業への注目が高まっている。そして今、時代はまさに逆転し、極端なナショナリズムの嵐が吹き荒れている。
そのIFOAMが昨年11月25日、日本の農林水産大臣、秋田県知事、農研機構理事長あてに、IFOAMの地域組織12団体も署名した“書簡”を送付した。
それは、IFOAM及びコーデックス委員会の有機農業の定義、原則に沿わないことを指摘し、日本が「あきたこまちR」の生産、流通、認証を進めることへの”懸念“を表明する”書簡“である。つまり重イオンビームという強い放射線による育種は自然界では起こりえない突然変異を起こす可能性があり、より慎重な検証の必要性を指摘している。特に、有機JAS認証の対象とすることに対する拒否感と海外輸出に混乱を及ぼすという懸念を示している。
この問題の根幹には、最も激しい公害、特に水俣病の経験が国際的に共有され生まれた“予防の原則”に対する対応の違いにある。
予防の原則とは「科学的に因果関係が完全に証明されていなくても、 深刻または不可逆的な被害のおそれがある場合には、 事前に規制・対策を取るべきである」という考え方であるが、端的に言えば日本の公害を原点として生まれた“予防の原則”であるが、その対応が今でも一番弱いのが日本と言っても過言ではない。
以前、コロナ前のことだが、海外オーガニックツアーを主催したとき、フランスの環境大臣補佐官を訪問し話すことが出来た。その時、当時問題になっていたネオニコチノイド系農薬の件で「フランスが一旦使用禁止にする施策をとっているのは“予防の原則”という観点からか?」というぼくの質問に対し、つかさず返してきた返事は「“予防の原則”はフランス憲法の“精神”だ!」というものであった。その言葉が突き刺さり、ぼくは次の言葉を出せなかったのをよく覚えている。
まさに、何を大切にしているかの行政姿勢が現れている。
重イオンビーム照射による育種技術は日本で開発され日本でしかやっていないものである。今回、そもそも生産者にも消費者にも、さらには海外にもほとんど知られていない放射線照射による育種技術によって生まれた「あきたこまちR」の市場化の実態を明らかにする。
そのため2月27日、まずはIFOAMの書簡を出した経緯とその内容を正確に理解するため、その担当責任者David Gould氏の参加を得てzoomによる公開国際会議を開催することにした。
是非参加してほしい!
オーガニック&サステナブル通信 Vol.120(2026.01.19 配信)
徳江倫明ミニコラム vol.1
重イオンビーム育種米「あきたこまちR」は有機農業と相いれるのか?をテーマにした、2月27日国際会議開催の意味!
▽IFOAMの「書簡」から有機農業を考える。IFOAM専門家オンライン講演2月27日開催
https://organic-press.com/news/ifoam-japan_news02/
この記事を書いた人

徳江 倫明
1951 年熊本県水俣市生まれ。’76 年早稲田大学卒業、㈱ダイエー入社。食品公害や環境問題への関心から、’78 年山梨県韮崎にて農場を設立、有機農業と豚の完全放牧に挑戦。同年、有機農産物専門流通団体「大地を守る会」にも参画し、’80 年から大地を守る会の活動に専念。’88 年には日本リサイクル運動市民の会と提携、有機農産物の宅配事業「らでぃっしゅぼーや」を興す。その後、’99 年有機 JAS 認証機関 「アファス認証センター」の設立を手がける。現在、(社)オーガニックフォーラムジャパン会長、(社)フードトラストプロジェクト代表理事、(社)生きもの認証推進協会代表理事、(社)CSR 経営者フォーラム会長。「オーガニックライフスタイルEXPO」の主催、セミナーやスタディ・ツアーの企画運営、講演、執筆、農場経営、新規就農者支援等に東奔西走の日々を送っている。