野菜とフルーツの彩りにさらに“エディブルフラワー(食べる花)”もトッピング。
さらに、さらに、彩り豊かに!
つくる人 横山直樹(横山園芸)
「花の存在感が昔と違って、薄くなっている」と横山さんは強く感じている。
「毎日の生活から遠ざかっている感じ、しませんか?」
母の日、クリスマス、誕生日、結婚式などお祝いパーティなどの特別なときだけしか飾ってもらえない。その日以外、役目がない印象すらある。家に帰ると玄関にある花瓶の花が出迎えてくれる。リビングにも何かしら花が当たり前に飾られている。
「そんな普段使いの花が減っているのが寂しいですね」
そんな中、8年前に地元(東京・清瀬市)の野菜栽培の仲間から「東京オリンピックに世界中から人が来るので、海外ではポピュラーな食べる花(エディブルフラワー)がほしいとレストランから依頼がある。栽培してくれないか」と頼まれたのをきっかけに挑戦がはじまった。
そして、試行錯誤するうちに「食の世界なら特別でなく、日常的にお皿にお花を添えられる。きれいで、味、香りもよく、栄養もある。花の魅力を存分に楽しんでもらえる。それってすごいな」と魅せられ、「ここからお花ファンを増やしていこう」と思い至ったという。
世界を見渡せば欧米や南の国では食文化として根付いている。シェフたちから「お客さんに好評で、ないとさみしいね」の声も聞く。日本でも定着する手応えは十分ある。
朝、花が大好きな女性スタッフが花を摘み、手作業で一定のボリュームでブーケ状に束ね、ひとつひとつケースに入れ、水を吸わせながら出荷する。レストランに届き、箱を開けたとき、活き活きとした花に「うわっ」と驚いてもらいたい思いがそうさせる。
これで冷蔵保存すれば1週間はもつ。「2週間大丈夫だったぞ」といわれたこともある。
「花は花らしく、最後まで咲いていてほしい」
そのために行き着いた今現在の最善の方法だ。けれども試行錯誤はまだまだ続く。
そして、コロナの影響が飲食店と同じく、直撃している現在ですが、アフターコロナに向けて有機JAS認証取得の準備を始めている。
横山さんは毎朝ハウスをのぞき、花たちの様子を見ることから一日が始まる。オーガニックの野菜も花も土づくりが大切。だから土ができるまでの2年間は出荷量ゼロだった。そして、無農薬だから虫がつかないようにビニールハウスで銀色マルチ、LED証明、遮光ネット、送風やミストで温度調整とできる限りの工夫を凝らして育てている。
出荷する花は当日の午前中にハウスを回りながら摘み、午後からブーケ作り、荷造り、出荷のローテーション。ケースいっぱいに摘まれた花が並ぶと極彩色のモザイク模様ができあがる。
摘んできた花はそのまま作業所に。ここでひとつとして同じ色どりなく、しかし形、ボリューム感はある程度均一にしてブーケ状に束ねられる。手を休めることなく次から次にアレンジされ、スケルトンのケースに入れられる。屋内とはいえ、たとえ真冬の寒さの中でも素手の作業。「お花好きだからねぇ、できるのよ」といいながら寒さも笑い飛ばしている。
季節によって差はあるものの、一日に平均200~300個をブーケ状に束ねスケルトンのケースに入れ出荷している。日本でのエディブルフラワーの供給はまだ産声を上げたばかり。市場にも出荷しているが、いち早くこの情報を聞きつけて見学に来たレストランからのダイレクトオーダーが多い。
エディブルフラワーはこれからさらに花の種類も増え(アメリカでは500種類ほどあるとも聞く)、レストランに広がり、ケータリングのパーティ会場をはじめ、ウェディングなどの各種パーティ会場、そして家庭の食卓にも広がっていきそうだ。
この記事を書いた人
山口タカ
大分県佐伯市出身 や組代表 ジャーナリスト&クリエイティブディレクター(出版/マッチングコンサル) オーガニック、アウトドア、食育をテーマに活動。1997年に日本初のオーガニック専門誌「ORgA(オーガ)」創刊。 2001年に「オーガニック電話帳」を自費出版。以来、”ひとり出版社”と称してオーガニックの普及をライフワークとし、全国有機農家や食品メーカー、レストランなどを取材している。漫画「美味しんぼ」第101巻“食の安全”をコーディネートし、作中に“有機の水先案内人”として登場。近著に「東京オーガニックレストラン手帖」(辰巳出版)