2021年はデジタルプラットフォームを利用したオンライン開催となった(出典:NürnbergMesse)

初のオンライン開催となったオーガニック食品とナチュラルコスメの国際見本市「BIOFACH / VIVANESS 2021 eSPECIAL」。参加人数はリアル開催に比べると少ないものの、業界関係者が交流する貴重な機会となったことは、前回の記事「BIOFACH / VIVANESS 2021がオンライン開催!コロナ禍のいま求められることとは?」で紹介しました。

しかし、見本市として“商品を展示して売買の商談をとり行う”という役割をはたしていたのでしょうか。オンラインでは、対面でのテイスティングやサンプリングは不可能。その中で、どのように自社商品を売り込んでいくか。それは、出展者にとって大きな課題であったかと思います。

特に、日本のオーガニック業界関係者にとって、出展した日本企業の動向は気になるところ。今回は、ジェトロが支援するジャパンパビリオン関係者へのインタビューを通して、パソコン画面のその向こうで何が起きていたのか、その姿を追いました。

ジャパンパビリオン出展数はコロナ禍で増加?!

リアル開催の場合、ジェトロがバイヤーマッチングやアテンド、デモンストレーションを実施し、出展者をサポートします。しかし、デジタルのプラットフォームにおいて、パビリオンはあってないようなもの。バイヤー獲得活動は、どうしても個々の企業にゆだねられることとなります。

出展企業ごとに会社概要や商品情報などを掲載した自社ページを作成。デジタルカタログや動画などもアップロードもできるようになっている(BIOFACH / VIVANESS 2021 eSPECIALプラットファームより)

見本市全体の出展数が例年に比べてかなり少なかったことから見ても、パビリオンへの出展を辞退した企業がいそうなものですが、ジェトロ担当者に聞くとそうでもなかったようです。

「オンライン方式での出展が決定した際は、どの出展者もオンラインのノウハウを得たいと前向きな姿勢でした。(サポート体制について)ジェトロでは、これまで実施したオンライン商談会の経験をふまえ、オンライン商談時のポイントをまとめた資料を出展者に配布。また、海外事務所のネットワークを活用し、管轄地域のバイヤーを誘致、生産者の想いやストーリーが伝わるようなパンフレットを作成し、バイヤーにPRするなどのサポートを実施しました。また、主催であるニュルンベルクメッセの日本代表部にも協力をあおぎ、出展者へのフォローをしていただきました。」
(JETRO Berlin・望月氏)

ジャパンパビリオン出展企業を紹介するデジタルカタログ(出展:JETRO作成ジャパンパビリオン出展者カタログ)

実はジェトロでは、昨年、出展者を募集する時点で“コロナ渦仕様の出展”を想定していました。リアル開催であったとしても、出展者ごとの間仕切りをなくしたオープンスペースを採用し、出展者の現地渡航は任意、オンライン商談にも対応、出展料は無料という条件だったのです。出展のハードルが下がったことで、前回は13社だったパビリオン出展数は22社に。結果として、多くの企業が海外市場へアプローチをする機会を得ることにつながりました。

出展企業はオンライン方式をどう感じた?

では、実際にジャパンパビリオンとして出展した企業は、今回のオンライン見本市をどのようにとらえたのでしょう。話を聞くと、各社とも慣れない方式に戸惑いつつも、今回の出展に意義を見出している様子でした。

●Japonte(出品内容:オーガニックドライみかん、干し椎茸、味噌など/初出展)

(出典:JETRO作成ジャパンパビリオン出展者カタログ)

「3人で手分けしてバイヤーを検索し、メッセージを送ってアプローチしました。ビオファとヴィヴァネスでプラットフォームが共通なため、せっかく検索したのにコスメのバイヤーだったなんてことも。バイヤーのリサーチには手間を要しました。既存の取引先とはビデオ商談ができましたが、新規の商談を獲得するのは難しかったです。しかし、通常の見本市であればブースを訪れたバイヤーとしか話ができないですが、オンラインであればさらに多くのバイヤーにコンタクトをとれる可能性があると感じられました。(今回が初出展のため)次回も出展したいと考えています。」
(同社・江口社長、Ullrich氏、Morgenstern氏)

●茶匠六兵衛(出品内容:オーガニック抹茶製品/昨年に続き2度目) 

(出典:JETRO作成ジャパンパビリオン出展者カタログ)

「昨年の出展でつながりが出来たバイヤーにコンタクトをとり、複数社と手ごたえのある商談ができました。マッチング機能を利用して、商談に進んだ新規の会社もあります。リアル開催のときは何十件と話ができましたが、今回、商談まで進んだのは片手で数えられるくらい。それでも良い経験となりました。次回もオンライン方式となるのであれば、事前準備として企業情報や製品説明ページの質を高め、バイヤーへのアプローチ数を増やして成果に結びつけたいと考えています。」
(同社・井上代表)

●白鶴酒造(出品内容:オーガニック純米酒/初出展)

(出典:JETRO作成ジャパンパビリオン出展者カタログ)

「アメリカ市場で好調なオーガニック純米酒のヨーロッパ発売を控え、新たな販路獲得のために初めて出展しました。オンラインならではの難しさはあったものの、1日あたり3~5件ほど新規の商談を行っていました。ビオファに出展することで、一般の見本市では出会えない企業に出会えたことは大きいです。商談の会話の中で、顧客のニーズなど新たな気づきも得ることができました。オーガニック志向とアルコールとの親和性がどこまであるのか、これから探っていくことですが、次回がリアル開催であれば出展したいです。」
(Hakutsuru Sake of Europe・二木氏)

3社とも次回の出展に前向きな姿勢ではありましたが、「できればリアル開催であってほしい」という思いはひしひしと感じました。

次回もオンライン開催だったら?

バイヤーにとっても、オンライン開催ははがゆいもの。短い時間でたくさんの商品を見てまわったり、その場で声をかけて商談したりすることができません。今回、商談の数よりも質を重視する傾向であったことは容易に想像がつきます。

その点から見て、例年以上にPR効果が高かったのは、企業によるプレゼンテーションやトークセッションのプログラムでしょう。たとえば、アジアパビリオンによる出品商品のプレゼンテーションや、スパイスメーカーによるアレンジレシピのクッキングショー、ハーブティーメーカーによるヨガのワークショップなど。様々なプログラムが、プラットファーム上でライブ配信されていました。スタート画面に、リアルタイムで開催中のプログラムが表示されるようになっているので、ちょっとした空き時間でも気軽に参加でき、出展者と交流をはかれます。

体験に乏しくなりがちなオンライン方式の場合、このようなイベントを企画するのも自社PRの手段のひとつかもしれません。

今回の出展を振り返り、ジェトロ担当者は次回を見据えてこう語っています。

「リアル開催だと会場に足を運んだ人としか出会えないですが、オンラインだと理論上は誰とでも無限大にコンタクトがとれるというメリットがあります。効率的にやれば、非常に大きな成果を上げられる可能性もあるでしょう。次回もオンラインであれば、バイヤーの属性などを基にしたPR方法や、バイヤーに響くメッセージの出し方など、出展者にアドバイスし、下支えしていきたいと考えています。今回は、お茶や日本酒など、試飲してもらえないことで苦戦した面もあったかと思います。オンラインでは、そのようなマイナス面だけではなく、プラスの面もアピールしていかないとバイヤーが集まってこないのではと考えています。次回がどうなるかはわかりませんが、全方位的に準備を進めていきたいです。」
(JETRO Berlin・高畠氏)

次回は2022年2月15日(火)~18日(金)の開催予定。

今回のオンライン開催は、誰にとっても新たな挑戦であり、またとない経験を積む機会となったことでしょう。アメリカやヨーロッパの多くの国では、コロナのパンデミックが消費者行動に大きな影響を与え、オーガニックマーケットの拡大につながっていると言われています。逆風どころか世界の追い風を受けて、日本企業には挑戦を続けていってほしいものです。

この記事を書いた人

神木桃子(こうぎももこ)

ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。

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