日本では、ヨガは女性の間で人気が高く、ヨガは女性がするもの、というイメージが強いですが、男女問わずスポーツ競技をやっている人もヨガをトレーニングで取り入れているという話しはよく聞きます。サッカーの長友選手がヨガをしていることは有名ですし、今年5月には、横綱白鵬が怪我の治療後のリハビリにヨガを取り入れたという報道もされていました。
体づくりのため?メンタルトレーニングとして?競技によってヨガプログラムはカスタマイズしている?など、アスリートにとってのヨガがどんなふうに取り入れられているか、アスリートヨガ事務局にお話しを聞いてみました。
アスリートヨガ事務局はどんな活動をされていますか?
私たちは、アスリートへ向けたトレーニングにヨガが関わるための様々な取り組みを統括する団体として、2015年12月に「一般社団法人アスリートヨガ事務局」を設立しました。大きくは3つの活動があります。1つ目は、アスリートにヨガ講師を、ヨガ講師にアスリートを紹介すること。2つ目は、指導者養成講座やセミナーを開催すること。3つ目は、ヨガの効果について科学的根拠を示すための研究です。
近年、個人的なつながり等でヨガインストラクターがアスリートにヨガを教える機会が増えてきた中、スポーツの世界で、コンマ何秒を上げるためにトレーニングをしているアスリートやコーチ、トレーナーなどが、本格的にヨガをトレーニングに取り入れるためには科学的な根拠が必要とされています。ヨガの「心地がいい」「体にいい」という実感だけではなく、数値として効果を示せるように、科学的根拠=エビデンスを示すための活動をしています。
現在、運動免疫学を専門としている、早稲田大学スポーツ科学学術院の枝 伸彦先生など、各分野専門の研究者の方々と共同で、ヨガの効果を立証する研究を進めています。この模様は、ヨガ専門誌『yogini』で連載がはじまっています。例えば最上のパフォーマンスを引き出すために、アスリートに必要な「睡眠の質を上げる」「回復力を上げる」という課題に対して、トレーニングや競技で体を酷使して免疫力が下がりやすい状態で、薬に頼らずに風邪を引きにくい体づくりをする、ということが求められています。
ヨガをすることによって、睡眠の質を上げる、回復力を上げる、といった肉体的な効果や、集中力や気持ちの切り替えや考え方などの精神的な効果が科学的に証明できるか、今後、各界の学会発表や論文発表に向けて研究を進めていきます。去る11月18日には日本臨床スポーツ医学会で「スポーツにおけるヨガ・ピラティスの可能性」に関して4名の先生方からのシンポジウム発表がありました。
どんな競技の方たちがヨガを取り入れていますか?何種類ぐらいの競技数になりますか?
アマチュア選手から日本代表まで幅広く見ていくと、オリンピック種目を含む50以上の競技でヨガを体験したり継続して取り入れているケースが見られています。高校野球、サッカー、トライアスロン、トレイルラン、自転車レース、スノーボード、フィギュアスケートなどでも実績が見られます。
ヨガを取り入れた、最も意外な競技は何でしょう?
記録にチャレンジし続け、自分を高めていく“戦い”のイメージが強いスポーツと、自己肯定感を育むヨガは、一見相反する印象をお持ちになるかもしれません。実際、いま一般に知られているヨガのイメージは、ピースフルで、ありのままの自分を認めて…という、癒しの印象が強いかもしれませんが、アスリートヨガ事務局代表理事ケン・ハラクマは「そもそもヨガは、修行僧がおこなうトレーニングで、自分との戦い、自分を制していくスキルなので、アスリートと反するものではない」と提唱しています。
アスリートは、気候、対戦相手、時差など、さまざまなプレッシャーやストレスのなかで、いつもトレーニングでやっていることをちゃんと本番で発揮する必要があります。結果を求めるのがスポーツなので、結果なんて関係ない!では済まされない世界です。
たとえば、格闘技の選手がヨガを取り入れている、と聞くと、意外な印象を持つかもしれませんが、実際、ゆるめ方を知っていると、打つ瞬間だけ力を入れることができるので、体を効果的に使うことができます。
競技によってヨガプログラムはカスタマイズしますか?
競技によっても、男女によっても、またサッカーひとつとってもフォワードとキーパーなどのポジションによって体の使い方や、必要となる機能が異なります。そのため、ヨガ的知識を基準に頼りすぎず、ヨガ講師はトレーナーやコーチ、選手本人に状態を聞いたりしながら、選手にとって最適なプログラムを提供する必要があります。
たとえば、アライメントを指示することでケガをさせてしまう場合があります。ポーズの完成形に向かうようにするのではなく、「腿の裏が伸びるように」、というように、どこの部分をどうしたいかを伝えるような、“体感できる”リードが必要なのです。
また、どのタイミングでやるか、というのが重要です。たとえば、明日大会がある、という選手にとって、肩甲骨周りの筋肉をゆるめすぎてはパフォーマンスに悪影響が出る可能性がある、ということをトレーナーは把握しているかもしれません。さらに、スポーツ界では、ウォームアップ時には動的ストレッチを推進しており、「10秒以上キープするストレッチ(静的ストレッチ)」を行わない場合があります。筋肉をゆるめすぎることによるパフォーマンスの低下を懸念しているためです。また、スポーツ界のルールやトレーニングの内容も日々変化や進化をしているため、常にスポーツ界の最新情報やルールに通じている必要もあります。
どこでやるのか、ということによってもカスタマイズは必要です。たとえば、グラウンドの芝生や土の上で、シューズを履いた状態、炎天下で行う場合、冬、雪上で分厚いウェアやブーツを着用した状態でポーズをとる場合、(ヴィラバドラーⅠ(戦士のポーズⅠ)の後ろの足は、雪に刺したりします)、水泳選手がプールサイドで濡れた状態で行う場合など、状況によってアレンジは必要です。
スポーツの世界にヨガを広めていく上で、アスリートヨガ事務局が気を付けていることは何でしょうか?
あくまでヨガは、アスリートが現在行っているトレーニングの効果を増幅する「レバレッジトレーニング」として存在することです。既存のトレーニングとぶつかるものではなく、底辺を支えるもの、今までのトレーニングに少しヨガ的な考え方や呼吸、エッセンスを追加することにより、トレーニング全体の底上げをすることで、アスリートのパフォーマンスや精神力向上、記録の更新、健康維持にもつながれば、という考え方です。スポーツは連動させた動きが多く、ヨガにも共通しています。マシントレーニングはパーツでの筋トレをメインに行いますが、ヨガは様々な筋肉を連動させて動くという点で効果的な場合もあります。
また、2ヵ月に一度開催しているセミナーでは、ヨガ講師やトレーナーが普段の活動に取り入れられるような知識を提供しています。これまでに座学で「トレーナーから見たヨガの可能性」、「個別指導の重要性」、「アスリートの栄養とヨガ」、「呼吸とメンタル」、「ジュニア期の指導の仕方」「脳科学から見たアスリートヨガ」、12月13日には元日本代表選手などから「ゾーン体験とヨガの可能性」について伺います。体験イベント「ヨガをスポーツ的に楽しもう!」、ヨガの前後で測定をおこなう「免疫測定体験会」、「青山スポーツフェス」などではスポーツ愛好家からトップアスリートまで幅広くヨガを体験していただいています。
取材協力:一般社団法人アスリートヨガ事務局
この記事を書いた人
スタジオ・ヨギー/ヨギー・マガジン
コンテンツディレクター 七戸 綾子
studio yoggy presents「ヨガをする人たちのほんとうのところ」
ヨガスタジオ「スタジオ・ヨギー」を全国20カ所に展開する株式会社ロハスインターナショナルにて、コンテンツディレクターを務める。音声アプリ「音ヨガ」「寝たまんまヨガ」の企画・制作、広報誌やオウンドメディアの編集を経て、2016年「ヨギー・マガジン」を立ち上げ、ヨガにまつわる記事やストーリーを発信している。
これまで一番効果があったダイエットは、炭水化物、脂肪、糖分を抜く“リセットダイエット”だったが(-9kg減)、元来の食いしん坊が災いしてあっという間にリバウンド。鍼灸師であり食事療法士の辻野 将之氏に、東洋医学に基づいたホリスティックな視点を学び、食養生ジュニアコーディネーターに。現在は、旬のもの、ナチュラルな素材のものを美味しく食べることを心がけている。