透き通った青空に爽やかな緑。そこに並ぶチーズや牛乳は暖かな日差しをあび、牧場から届いたばかりのようです。パッケージには大きく書かれた「BIO」の文字。そしてその脇には緑色のBiolandマークが入っています。
一見するとオーガニックスーパーの広告のようですが、実はこれ、世界29ヶ国で約10,500店舗を展開するディスカウントストア「Lidl (リドル)」のものなのです。
Lidlは昨年秋にオーガニック生産者団体「Bioland (ビオラント)」と提携を発表しました。これを受けてLidlはオーガニックPB「Bio Organic」シリーズのリニューアルを開始。昨年11月にりんごやガーデンハーブを、そして今年1月にチーズや牛乳などシリーズの乳製品全てをBioland認証製品にしてドイツ国内約3,200店舗で新たに販売を始めました。
Biolandはドイツ最大のオーガニック生産者団体であり、加盟する生産者は7,700にも及びます。その歴史は45年以上にも及び、ドイツ国内のオーガニック農業を推進する旗振り役でもあります。厳格な基準に沿って生産された製品にはBioland認証がつけられ、高品質な国産オーガニック製品としてオーガニックストアを中心に販売されてきました。
以前のコラムでもご紹介したように、ディスカウンターでもオーガニックPB製品を導入する動きは進んでいます。しかし、取り扱うのは基準が緩やかとされるEUオーガニック認証やドイツオーガニック認証の製品ばかり。Biolandもディスカウンターの価格に重きを置く姿勢には苦言を呈していただけに、今回の提携は青天の霹靂でした。
主に海外で大量生産された安価なオーガニック製品を販売するディスカウンターと、生物多様性から労働環境まで独自の原則を掲げ、高い品質の製品を生み出しているオーガニック生産者団体。相反する存在であった2社がなぜ手を組むことになったのでしょう?
ドイツ誌「Spiegel (シュピーゲル)」の取材に対し、Bioland代表のJan Plagge (ヤン・プラッゲ)氏は18ヶ月もの長きに渡った交渉を振り返りながら語りました。
「私たちはLidlからの提携の申し入れがグリーンウォッシングキャンペーンにしか思えませんでした。しかしその後、Lidlでは先を見据えた変革プロジェクトが進行しており、そのためにドイツのオーガニック生産者に賭けていることを知ったのです。」
(グリーンウォッシング‥環境配慮をしているように偽り装うこと)
オーガニック先進国と呼ばれるドイツですが、まだまだ国内生産量が需要に追いついておらず、輸入頼みな一面もあります。Lidlは高品質な国産オーガニック製品を扱う店という看板を獲得し、Biolandの生産者は長期にわたって安定した収入を得ることができます。ドイツのオーガニック農業をさらに発展させるという目標を掲げ、両者は走り出しました。
また、他のディスカウンターがオーガニック牛乳の値段を下げてきたらLidlとBiolandにとっては圧力になるのでは?という質問に対し、Pragge氏はこう答えています。
「Bioland製品は品質を重視して市場に出されており、価格を重視していません。これはパラダイムシフトなのです。今までのディスカウンターのような強引なやり方ではこれ以上続いていかないでしょう。」
Spiegel誌オンライン記事(2018年10月20日付)より一部抜粋(筆者翻訳)
実際に価格について見てみると、低脂肪牛乳1Lが0.95ユーロ(約114円/1ユーロ=120円換算)、ヨーグルト 150gが0.35ユーロ(約42円)となっています。オーガニックストアでもメーカーによってはこれと同程度の価格で購入できる製品もあり、ディスカウンター価格に合わせてはいないことがわかります。
Biolandは価格を守ることに関してはかなり慎重で、契約時に“フェアプレイルール”を設け、監査を付けるなど対策をとっているそうです。
一方のLidlはディスカウンターの宿命で売場づくりに人件費をかけらないため、付加価値のあるBioland製品をどう売り込むのか難しい課題をつきつけられています。
ホームページやチラシなどでは「Biolandをすべての人に」をキャッチコピーに積極的に宣伝。コラムの最初に取り上げた画像などイメージ戦略はかなり練られている印象です。
陳列はディスカウンター特有の段ボールごとそのまま並べる形式のため、箱の側面にBioland認証マークがわかりやすく印刷されています。この辺りはディスカウンターならではの工夫かもしれません。
牛乳のパッケージ正面にはBioland認証を含め3つのオーガニックマーク、そしてドイツの国旗をモチーフにしたハートマークと情報がぎっしり。Lidlのマークは側面に小さく入っているだけで、知らない人が見たらLidlのPB製品とは気づかないくらいです。Lidlのマークにはどうしても安売りのイメージがつきまとうので、極力控えめにという意図でしょう。
個人的にはディスカウンターでのオーガニック製品の扱われ方には慣れない面もあります。しかし需要が高いのであれば、より多くの人に製品を届けるために販路も多岐にわたる必要があります。
ディスカウンターの顧客がオーガニックストアに足を運ぶことはまれでしょう。しかし、環境に配慮した国産オーガニック製品を購入したい顧客はいるはずです。
今回の提携が成功するのであれば、それは望ましい未来のひとつなのかもしれません。
この記事を書いた人
神木桃子(こうぎももこ)
ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。