「東京オーガニック★★★レストラン手帖」取材ノート その1
東京のオーガニックレストランマップを描いてみる

台東区蔵前にある寝かせ玄米がおいしい「結わえる 本店」

オーガニックが根づくまで何年かかる?

かなり前の話だけれど、1997年(平成9年)12月に「ORgA(オーガ)」という一般消費者向けのオーガニック専門誌を創刊し、不定期ながら3年間で7号まで発行した。オーガニック(=有機)という言葉がまだ一般的でない時代だったが、それでも当時の主だった女性誌がこぞってオーガニック特集を組むプチブームはあったと記憶している。

発売するたびに出版社から聞いた首都圏内の書店での販売データを今でも鮮明に覚えている。

「都内は渋谷、港、世田谷、杉並、大田、目黒区の住宅地の最寄り駅周辺。神奈川は逗子、湘南エリアの書店で売れて、東京の江東、台東、墨田の下町エリアはなぜか動かない」という内容。

当時、中央区月島の長屋に編集室があり、その頃商店街(通称もんじゃ通り)に書店は4軒(現在は1軒)あったので書店回りもしたけれど、確かに売れている形跡はなかった。ただ隣の佃島の再開発されたばかりの「大川端ウォーターフロントタウン」の芳林堂書店(大型書店で2020年閉店)では売れていた。

この雑誌の一番の購買動機となる“食と環境の安全と健康意識”の地域差は3年間で埋めるのは不可能だった。そして、その10年後、2010年に東京のオーガニックレストランガイド本を出版したけれど、ついぞ下町エリアへレストラン取材で訪れることはなかった。10年経っても下町はオーガニックとの縁は薄かった。

1997年~2000年に発行された雑誌「ORgA」(オーガ)

1997年から2000年にかけて一般読者向けでは日本初のオーガニック専門誌として創刊。オーガニック(=有機)は、言葉自体がまだ知られていなかったけれど、すでに日本各地にそのエネルギーは脈々と拡散し、育まれていた。

それからまた10年

ところが、今回のレストラン取材では大きな変化に出会った。

秋葉原、神田、錦糸町周辺や浅草を起点に隅田川の流れに沿って本所吾妻橋、両国、蔵前、清澄白河、門前仲町、月島、勝どきとオーガニックトレンドの新しい地図が浮かび上がった。あろうことか“東京ダウンタウン”がオーガニックのニューメッカに変貌しはじめていた。

理由のひとつは和食の世界遺産登録や2020年オリパラ開催決定で、この5~6年(2014年以降)の間に外国人観光客増加に拍車がかかったからだろう。それは同時に、それまで指の先っちょほども意識していなかったハラール、ヴィーガン、ベジタリアン、マクロビ、コーシャからグルテンフリーにおよぶ、海外での様々な食べ方のルールの知識と理解が外食業界に急務の課題として、寝耳に水の勢いで襲いかかってきた。

そして、観光、ビジネスで滞在する訪日客のインバウンド効果を得るには、高級ホテルやレストランだけでなく、ランチなどで気軽に利用できるファストフードや街のレストランでもヴィーガンやハラールなどの食べ方に対応する必要性が高まり、観光スポットとして人気急上昇した浅草を起点にナチュラル&オーガニックなレストランが誕生する流れが生まれたようだ。

もちろん、原宿、表参道、青山、渋谷エリアのオーガニックレストラン中心地の発信力もパワーアップしているが、新しいエリアとして東京ダウンタウンが誕生したことは大きな意味を持つ。まだあまり業界でも認識されていないが、東京のレストランマップが大きく変わり、その原因とこれからの動向を予測すると、インバウンドだけではない興味深い次なる動きが見えてきそうである。

本誌60-61pより

本所吾妻橋の「ORGANIC LOCKER」。野菜の無人販売と奥ではイートインスペースが広がる。オリジナルの花春巻きは大人気のオリジナルメニュー。セミナーイベントスペースとしても活かされている。

取材ノートから

10年ぶりとなる東京のオーガニックレストランガイドの出版のため、19年10月から20年1月中旬にかけて取材。その後は執筆、入稿、校正作業に追われていた。そこにそれまでまったく存在していなかった新型コロナの突然の乱入にあたふたし、自粛が始まっている3月末に刷り上がり、書店も閉まっているコロナ禍の4月11日に発売。

ここでも寝耳に水の経験だった。

それから3ヵ月。自粛は解除されたが、既に第2波の動きも囁かれている不安定な時期。これからどうなる?先はわからないがまずは現状を見ることにする。

そして、取材したけれど本著では紙幅の都合と別の切り口なので掲載に至らなかったレストラン事情と合わせて幾つかのテーマに分けて考えてみる。

東京オーガニック★★★レストラン手帖

ストレスフリーのレストランに行きたい「東京オーガニック★★★レストラン手帖」
発売:辰巳出版 2020年4月11日全国書店にて発売
判型:A5判 128p  
定価:本体1400円+税
著者:山口タカ+チームビオ・サンタ 責任編集 

この記事を書いた人

山口タカ
大分県佐伯市出身 や組代表 クリエイティブディレクター(編集制作/マッチングコンサル) オーガニック、アウトドア、食育をテーマに活動。1997年に日本初の一般消費者向けのオーガニック専門誌「ORgA(オーガ)」創刊。 2001年に「オーガニック電話帳」を自費出版。以来、”ひとり出版社”と称してオーガニックの普及をライフワークとし、全国の篤農家や食品メーカー、レストランなどを取材している。漫画「美味しんぼ」第101巻“食の安全”をコーディネートし、作中に“有機の水先案内人”として登場。2020年4月、「東京オーガニックレストラン手帖」を辰巳出版より刊行。

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