ドイツ第二の都市・ハンブルク、ドイツ最大の港を持つ貿易の重要拠点であり、芸術や文化の発信地でもあります。その市内西部に位置するアルトナ地区に、ドイツ食品小売最大手「EDEKA(エデカ)」が新業態としてオープンさせたのがオーガニックスーパー「NATURKIND(ナトゥアキント)」です。
前回のコラムではエデカがオーガニックスーパーを出店した背景や、他社の事例などを紹介しました。今回は気になる店づくりから品ぞろえ、競合他社との違いなどを徹底紹介しながら、エデカの戦略とその課題について迫っていきます。
徒歩15分圏内にライバルのデンズやアルナトゥラ
立地はアルトナ駅から徒歩10分弱。文化財である旧貨物駅をリノベーションした複合施設がナトゥアキントの出店場所です。隣にはエデカもありますが、事情を知らない人は2店舗が同じ運営母体だとは思いもしないでしょう。
アルトナ地区は若者や家族連れで賑わう人気のショッピングエリアで、大手オーガニックスーパーの「denn’s Biomarkt(デンズビオマルクト)」や「ALNATURA(アルナトゥラ)」、本コラムで紹介したこともあるパッケージフリーショップ「Stückgut」も店舗をかまえています。
ただしナトゥアキントが入る複合施設は街の賑わいから少し離れた場所にあります。周辺は市が進める再開発工事の真っただ中で店は少なく、現状では集客に不利な場所ですが、長期スパンで見据えればポテンシャルを秘めています。
店のイメージはインダストリアル×ナチュラル
店舗面積は約500㎡で、通常のオーガニックスーパーは1,000㎡以上が一般的であることを考えると、かなりコンパクトです。
店内は旧貨物駅だった構造を活かしたインダストリアルな雰囲気。内装に木材やイメージカラーのグリーンを組み合わせてエコフレンドリーな印象も与えています。
照明にはLEDライトを使用、店先にEV用充電スタンドを設置するなど環境への配慮もうかがえます。
パッケージフリーの品ぞろえが充実
取扱い品目はおよそ7,000点、もちろん全てオーガニックです。
店名であるナトゥアキントは英語で「natural kid」。この名前からファミリー層向けの店を想定していましたが、品ぞろえに偏りはなく、食品から化粧品、雑貨まで幅広くそろっている印象です。
何よりも大きな特徴は、今やドイツでは一大ブームのパッケージフリーで買い物するスタイルを取り入れていることです。
オーガニックスーパーでは定番となっているバルクコーナーに加え、その場でガラス瓶に充填する牛乳の自動販売機、ナッツペーストマシーン、フレッシュジュースマシーン、サラダバーなども設置されています。パッケージフリー専門ショップならまだしも、オーガニックスーパーでここまで設備が揃っているのはドイツでも珍しいことです。
また、ドイツでは精肉や肉加工品、チーズなどをスーパーの対面カウンターで量り売りするのは一般的ですが、ここではヴィーガンやベジタリアン向けの惣菜も提供しており、これも他社にはない点として挙げられます。
量り売りに使用できるガラス瓶やタッパーを始めとする、プラスチックフリーやゼロウエストのライフスタイルに沿うような生活雑貨も多く取りそろえています。
目指すは地域に根付くオーガニックスーパー
その一方で店内のどこを探してもエデカのオーガニックPBブランド「EDEKA Bio」が見当たりません。エデカが手掛ける店なのだから当然扱うものだと思い込んでいただけに、かなりの驚きでした。
その理由をナトゥアキントのプレス担当者に問い合わせてみると、このような答えが返ってきました。
「品ぞろえに関しては出来る限り土地柄や地域性を反映したものにするのが目標。顧客は決まったものを探しに専門店へ来る。ナトゥアキントはエデカグループで今まで抜けていた部分を埋めるための店であり、そのためにこのような販売戦略をとった。(一部略)エデカグループ加盟企業のオーナー達は現場の顧客の要望を最も理解することができると確信している。それによってエデカグループは111年以上も成功を収めてきたのだ。」(筆者訳)
小売最大手が手掛ける店でありながら、求めるのは個々の店が“ローカル”に特化すること。意外な答えでしたが、あながち実現不可能な話でもありません。
ナトゥアキントはエデカグループ直営の店ではなく、グループ加盟企業のオーナーによって運営されています。本部が一括管理するのではなく、地域を知り尽くしたオーナーが運営の手綱を握ることで、デンズやアルナトゥラなど大手オーガニックスーパーチェーンにはない個性的な店づくりが出来るのかもしれません。
課題は店の魅力をどう打ち出すか
コンセプトや品ぞろえなど魅力的な要素がある一方で、残念な点として挙げられるのはそれが売場から伝わってこないことです。具体的にはプライスカードやPOPの情報量が少なく、あっても事務的な印象で、売場に整然と製品が並んでいるようにしか見えません。
特に問題なのが戦略として強化したいはずのローカル製品がどれか全くわからないことです。“フェアトレード”を伝えるPOPはあるのに“ローカル”はなく、製品を裏返して製造者情報を見ないとローカルメーカーかどうかがわかりません。
実は牛乳の自動販売機やフレッシュジュースマシーンなどは、エデカの店舗で実用例がある機械をオーガニック仕様にして導入したもの。このようにハード面では大手ならではの強みもありますが、長年総合スーパーとして培ってきた合理性重視の姿勢が不利に働いているように見えます。
ただし接客に関してだけは全く逆の印象。取材で訪れた際に何人かの店員に質問をしましたが、対応がとても丁寧でした。顔見知りの店員に話しかける客の姿もあり、客と店員との距離が近い、昔ながらの個人商店を思わせる風景にエデカとは違う“オーガニックスーパー”としての自負を感じました。
品ぞろえや接客の強みを活かし、いかに差別化を図っていくか。ナトゥアキント成功の鍵はそこにあります。
この記事を書いた人
神木桃子(こうぎももこ)
ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。