Buongiorno a tutti. 皆さま初めまして。今月よりイタリアからのレポートをお届けさせて頂きます竹内と申します。今年2月まで大阪にあるオーガニック食品の商社にて海外営業の仕事をしており、ものづくりに携わる人々の真摯な姿勢や、伝統的な日本の食文化の叡智に感銘を受けてきました。そんな商品の裏側のストーリーを欧州の消費者に如何に魅力的にPRするか、そんな関心が強くなり、食科学大学にてマーケィングを学び直そうとイタリアにやって参りました。時を同じくして新型コロナウイルスの感染が拡大し、混乱の中での新生活スタートとなりましたが、こちらはようやくピークを過ぎるかといった状況です。

こんな特殊な状況ではありますが、前職の仲間や生産者の皆さまのように、熱い想いでオーガニック事業に取り組まれている読者の皆さまのご参考になるような情報をお届けしていきたいと思います。どうぞ宜しくお付き合い下さい。

新型コロナウイルスの蔓延により、人命・経済ともに甚大な被害が出ているイタリアですが、一般・オーガニック共に、食品小売業については昨対比を大きく上回る堅調ぶりを示しています。

日本の緊急事態宣言より約1ヶ月早い3月10日、イタリアでは新型コロナウイルスの封じ込め政策の一貫として、全土において外出禁止令が発令され、これにより不要不急の外出は処罰の対象となりました。翌日には飲食店などの店舗閉鎖が決定。同月21日にはさらに規制が強化され、ライフライン以外については原則操業停止となり、多くの国民が在宅待機を強いられることになりました。この規制は少なくとも5月頭まで延長され、その間に規制緩和に向けた協議がなされる見込みです。

筆者も外出禁止令が出る1週間前に進学の為イタリアに入国しましたが、刻一刻と変わる感染の状況と、「当たり前の生活」が奪われていく事態に大いに戸惑いました。進学先の大学院も秋に開講延期となり、今は週に一度、宣誓書(外出理由を宣誓した警察所定のフォーマットの持参が義務付けられている)を握りしめてスーパーに買い出しに行く以外は家に籠って日々を過ごしています。

一般スーパーで食料品を買い込む人々。この日の夜に外出禁止令が発令された。

バリケードが張られた飲食店のテラス席

このような状況下、先日のイタリア国立統計研究所 (ISTAT)の発表では、今年2月の大手小売店、いわゆるスーパーセンターにおける売上が8.4%増と、あらゆる業種の中で最も顕著な伸張率を示しており、その中でも食品の売上は昨対比9.9%の伸びを記録したと指摘しています。小規模小売業であっても、食品については約5%伸張しており、2月時点では外出禁止令が執られる前ではありますが、感染拡大の不安を受け、食品の購買が助長されたとみられています。3月以降の動向は未発表ながら、さらなる伸び率が見られそうです。

伸張はオーガニック食品でも同様です。イタリアのオーガニックストアとして最大(4月現在約290店舗)であるNaturaSiにてカテゴリーマネージャーを務めるフィリッポ・マニー二氏によれば、今年3月の全店売上は昨年同月と比較して28%増、4月はさらなる伸張を見込んでいるとのことです。さらにオンラインショッピングでは、3月で昨対比300%、4月前半も400%を記録していると言います。

伸張の理由としては、飲食店の営業停止に伴い、必然的に内食・中食に需要が移行した事、また非常事態において普段より多くの食糧を備蓄しておこうと買いだめの心理がはたらいた事、さらに健康管理に対する意識の高まりによって、オーガニック食品への注目度が向上している事などが考えられると同氏は分析しています。

消費者に支持される理由は利便性や安心感にもあるようです。

現在は行政の指示によりどの小売店も、売り場面積に応じて一度に入店出来る人数を制限していますが、NaturaSiは高価格帯という事で一般的なスーパーのように行列が出来る事はありません。そして売り場面積も小さい為、一度の買い物で接触する人の人数も必然的に少なくなり、買い物時間も短くなります。またあくまで推測の域ではありますが、あらゆる人が買い物に訪れる大型格安店舗に比べ客層が限定的、且つ日頃から衛生観念が高い傾向にある客層のため、感染リスクが比較的低そうだ、と考える一定の消費者に支持されていると思われます。

NaturaSiの前で入店を待つ人たち

カテゴリ別では、イースト、小麦、卵など、「おうち時間」を使って、パンやパスタ、お菓子づくりをする為の食材に需要が高まっているようです。筆者も近くのNaturaSi店舗に足を運びますが、実際に小麦は品薄である事が多く、先日はイーストやベーキングパウダーがことごとく売り切れていました。このようなホームベーカリー関連製品の売り切れはNaturaSiに限らず、多くのスーパーで発生しているようです。そんな品薄の棚を見るたび、休校の子供たちを楽しませながら料理の支度をする親たちの姿が目に浮かびます。粉を捏ねるのはストレス発散にも一役買っているかもしれません。(4月中旬現在、新学期が始まる9月まで一貫して休校とするか否かの協議がなされています。)

品薄となっているホームベーカリー関連製品

その他今の状況下での一般的な傾向としては、青果売り場では使い捨てのビニール手袋を着用して手に取るのは常時からどのスーパーでも同じですが(青果は無包装・量り売りが多い為)、最近ではこの手袋を着用したまま最後まで買い回る人が多いように見受けられます。対面売り場やレジでは人との間隔を1メートル保持するよう規制線がはられており、また独自で買い物客にマスク着用の上での来店を義務付ける小売店も出始めています。

現在ロックダウン下での生活を1ヶ月半近く経験していますが、食品はライフラインの中でも最も根源的なものであり、このような状況下でも生産・消費活動に制約を受け難い事、さらに人々の健康意識が高まっているといった背景は、オーガニック食品従事者にとっては、決して先行きの暗いものではないと感じています。一方、同じ食品製造者でも小売店への販売ルートを持たなかったり、現在営業停止となっている飲食店への卸業が中心の業者は、食材を廃棄せざるを得ないという胸の痛むニュースも耳にします。

持続可能性という言葉が持て囃されて久しい昨今ですが、一過のトレンドではなく名実の伴ったシステムとして構築される事がポストコロナの世界では急務なのではないでしょうか。次回以降、こうした取り組みに焦点を当てて取材をしていきたいと思います。

この記事を書いた人

竹内芙美(たけうちふみ)

365日寝ても覚めても食べ物の事ばかり考えている根っからの食いしん坊。
オーガニック食品の老舗商社にて海外営業として勤務し、欧州のオーガニックブランド向けに日本の伝統食品のPB開発等に携わる。在職中に日本の職人のものづくりに魅せられ、商品の背景にあるストーリーを欧州の消費者に伝える事に関心が芽生える。2020年社会人10年目を機に、食科学大学(通称スローフード大学)にてマーケティング専攻の為、渡伊。

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