ぼくが何故有機農業の普及を目指すのか?しかもその取り組みは50年を超えた。自分でもなんともしつこいなと思ったり、その先にどんな社会をイメージしているのか、時々考えてしまう昨今である。

ぼくが有機農業の普及を目指した大きな要因の一つは、私が生まれた地、熊本県水俣市で起こった “水俣病”の経験に端を発している。経済成長を目指す時代の価値観、そして日本の公害を象徴するものとして、それはあった。

国の政策はその時代を象徴する。戦後の食料増産のための化学肥料の普及、暮らしを豊かにするプラスティックの柔軟性をつくる原料(可塑剤)の増産。その二つを主力に生産していたのが加害企業の“チッソ㈱”である。いわば、チッソ㈱は当時の国づくりの根幹にあり、国策企業としてあった。その構造が支えとなり、水俣病の原因がチッソの可塑剤の原料となるアセトアルデヒトの製造工程から新たに派生した有機水銀が排水として海に放出されたことにある。原因が、その症状から見て水銀ではないかという指摘を熊本大学がして以来、国もチッソも“科学的実証主義”を盾に、原因を特定するのに12年の歳月がかかり、被害を膨大に膨らませた。

ここでは詳述しないが、2011年の福島原発事故も同じ矛盾をはらむ。

その時代の価値観、国がどちらを向いているかはさまざまなことに影響する。科学的評価すら“時代の価値観”に影響され、純粋な意味で科学的客観性、いわゆる現実世界の中で“実証主義的科学観”が成立しないのは想像に難くない。

さて、日本で国が有機農業を一つの生産方法として明確に認め、環境保全型農業の最前線にあると認めて、制度、法律まで作ったのは2022年のこと。ほんの4年前のことである。

ぼくたちが有機農業を普及しようと動き始めた1970年代は、特に国と農業協同組合を含め反有機の大変な時代であった。それでも農薬や化学肥料の害に気づく人、何より環境に及ぼす影響に問題を感じる人も徐々に増え、独自のマーケットを形成し、ぼくの実感では、このマーケットは消費者の共感をもとに少しずつでも確実に成長してきた。どんな時代でも縮小したことは一度もない。

さて今回視察したキルギス共和国はジェトロの2019年リポートによれば、国として“100%オーガニック化を目指す”という宣言をしている。そして2023年にはそれを目指すための法律、“有機生産法(有機認証システムを含む)”を施行している。

キルギスは現在の人口740万人、そして毎年10万人ずつ人口がふえている。まさに日本でいえば1970年代初期、キルギスの近年の実質GDP成長率は9~11%と極めて高い。キルギスは高度経済成長の真っただ中にいる感じである。いたる所で道路工事があり、建築ラッシュのさなかにある。見える風景もそのことを物語っている。

日本に“有機農業”という言葉が生まれたのは1972年である。元日本農業協同組合の重鎮一楽照雄が農薬、化学肥料の多投に傾く日本農業を憂い名付け、日本有機農業研究会を設立した。“天地に機有り”、つまり自然には自然の摂理がある。それに沿った農業を目指そうということだった。しかし国も現JAも完全にそれを無視してきた。そして50年後の2022年、国は2050年有機農業比率を25%にまで引き上げると宣言。まさに我々から見ればコペルニクス的転回ということだ。世界が環境問題から持続可能性を前提にした農業のあり方を目指す流れを無視できなくなったということだ。

さてキルギスは日本での1972年と2022年が同時に進み始めた。状況は高度経済成長期の今、農業の農薬や化学肥料を前提にした効率化ではなく、国として有機農業の推進に焦点を絞り始めた。そして有機生産法という法律をつくり、参加型保証システム(PGS)という地域の中で生産者、消費者、販売者など利害関係者が集まり相互認証を進めるという世界でも新しい認証方法を採用し、地域的な広がりをつくりつつある。

50年間という空白期間を超え、キルギスはいきなり世界の最先端に立つ可能性がある。

問題は世界のマーケットが何を求めるかにかかっている。

オーガニック&サステナブル通信 Vol.129(2026.09.24配信)

徳江倫明ミニコラム vol.4
キルギスという国―“オーガニック100%”を目指す国キルギスに行ってきました―

この記事を書いた人

徳江 倫明
1951 年熊本県水俣市生まれ。’76 年早稲田大学卒業、㈱ダイエー入社。食品公害や環境問題への関心から、’78 年山梨県韮崎にて農場を設立、有機農業と豚の完全放牧に挑戦。同年、有機農産物専門流通団体「大地を守る会」にも参画し、’80 年から大地を守る会の活動に専念。’88 年には日本リサイクル運動市民の会と提携、有機農産物の宅配事業「らでぃっしゅぼーや」を興す。その後、’99 年有機 JAS 認証機関 「アファス認証センター」の設立を手がける。現在、(社)オーガニックフォーラムジャパン会長、(社)フードトラストプロジェクト代表理事、(社)生きもの認証推進協会代表理事、(社)CSR 経営者フォーラム会長。「オーガニックライフスタイルEXPO」の主催、セミナーやスタディ・ツアーの企画運営、講演、執筆、農場経営、新規就農者支援等に東奔西走の日々を送っている。

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