IFOAM(IFOAM – Organics International=国際有機農業運動連盟)は、「あきたこまちR」について安全性やリスク評価の不十分さ、表示、有機JAS認証の不整合等について懸念を表明し、2025年11月25日、農林水産大臣、秋田県知事など3者*宛てに書簡『農業、生物多様性、公的信頼の保護 — 新規ゲノム技術(NGTs)の一形態であるイオンビーム育種に関する意見』を送付しました。

この書簡はIFOAM本部(ドイツのボン)から郵送され、専門機関である「IFOAM Seed Platform」が取りまとめ、IFOAMジャパンを含む世界12のIFOAMの地域ネットワークや各国の団体が連名で賛同署名をしています。

*書簡宛先
・農林水産大臣 鈴木憲和様
・国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(NARO) 理事長 久間和生 様
・秋田県知事 鈴木健太 様

農水省には11月28日着
大臣官房新事業・食品産業部食品製造課・基準認証室が受理

IFOAM 「書簡」の要約について

IFOAMの主張(おもな懸念点)

1.新しい育種技術(Ion beam breeding / NGTs)の安全性に不十分な評価

・「あきたこまちR」はカドミウム低吸収の目的で開発されたが、マンガン低吸収という予期せぬマイナス効果が確認されている。
・遺伝子変異が劣性であり、品種維持や他品種との交配で望ましい特性が失われるリスクがある。
・このような農学的・生態学的なリスクに関する十分な評価が行われていない。

2.消費者の権利と透明性の欠如
・あきたこまちRの育種技術はGMOとして扱われるべきものであるのに、表示や追跡が義務付けられていない。
・消費者が非GMOを選択する権利が侵害されている。

3.有機認証(JAS)との不整合
・遺伝子組換え技術は有機製品では原則禁止されている。
・あきたこまちRをJAS有機認証に含めることは、有機基準との矛盾を生じ、国際的な信頼や輸出市場に悪影響を及ぼす可能性がある。

4.従来の遺伝子組換えやNGTsの包括的なリスク
・NGTsやGMOは持続可能性や生態的利益を十分に提供できず、短絡的解決策に過ぎない。
・規制の不備は生態系・人間の健康・消費者信頼に広範な影響を与える。

IFOAMと日本の農水省等の見解の重要な相違点について

1.「あきたこまちR」は放射線育種か遺伝子組み換え食品(GMO)か

GMOや新規育種技術(NGT)の定義において、日本は放射線育種やターゲット型ゲノム改変であっても、外来DNAを含まない場合は非GMOとして扱います。評価基準としては、従来の「あきたこまちと」比較した項目(成分、タンパク質、形態、栄養成分、食味、収量、胚芽・アミロース含量など)で安全性・品質の同等性を確認したとし、JAS有機認証の適合判断の根拠の一つとしています。

一方、IFOAMはターゲット型ゲノム改変技術もGMOに含め、技術手法そのものを評価対象とします。Risk Protocolに基づき、科学的評価だけでなく、生態系への影響、農業面での安定性、人間の健康、消費者信頼、国際整合性、倫理・社会的影響などを含む包括的評価を重視します。つまり、IFOAMは有機原則に沿った総合的なリスク・影響評価を行う点で差異があります。

2 有機認証(JAS)の適合性と表示
有機認証(JAS)の適合性については、日本は「あきたこまちR」をJAS有機認証の対象として認めています。一方、IFOAMは、あきたこまちRの改変手法が有機原則に反すると見なし、認証不可と判断しています。

3 市場流通や表示についての立場の違い
日本ではGMO表示なしで流通が可能であり、特別な流通管理も求められていません。一方、IFOAMは消費者の選択権確保や市場の透明性維持の観点から、表示義務や流通管理を重視しています。

また、「あきたこまちR」は特許権に基づいて販売されていることから、購入した農家は自由に自家採種・譲渡等ができず、農民の種子共有権(Farmers’ Seed Sovereignty)を損なう懸念もあります。

4国際的な整合性

EUでは新規ゲノム編集技術(NGT)をGMOとして扱い、有機認証への適用は認めていません。米国でも、非有機農産物との交雑リスクや表示・追跡の議論が進んでおり、国際的に消費者の選択権や透明性確保の圧力が強まっています。

この国際的な動向を踏まえ、IFOAMは日本の農水省や関連機関に対し、リスク評価や認証ルールの国際整合性確保、消費者選択と市場透明性の強化を働きかけようとしています。

IFOAMの要望(具体的提案)について

1.リスク評価の適用
・「Global Safety & Risk Assessment Protocol for New Genomic Technologies」(IFOAMのリスク評価プロトコル)を全面的に適用すること。
・新規育種技術の環境解放や市場投入前に十分な科学的評価を行うこと。

2.表示・追跡の義務化
・あきたこまちRのGMO表示・供給チェーンでの追跡を義務付け、JAS有機流通との混入を防ぐこと。

3.JAS有機認証の見直し
・あきたこまちRを有機認証から除外すること。
・将来的にNGTsやGMOが有機基準に含まれないよう保証すること。

4.代替手法の推奨
・有機・アグロエコロジー的手法の活用を推奨し、化学的・遺伝子改変技術に依存しない持続可能な農業を推進すること。

5.政策・規制への指針
・カルタヘナ議定書など国際規範に沿ったリスク評価の徹底。
・新しい育種技術の規制・監視体制の整備。

特定非営利活動法人 IFOAMジャパン
https://ifoam-japan.org/

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