昼間のファサード。ガラスの向こうに楽しそうな絵の世界が見える

2025年10月の「わかめアニキ最前線!九州ツアー」。キャンピングカー「絆号」に同乗して向かったのは、宮崎県東臼杵郡門川町に1店舗を構える「サンシールさの」。鹿児島・天文館のフードオアシス ハルタ、宮崎市内のラディッシュに続いて、九州ツアーでは最後の取材先になる。

サンシールさのに到着すると、すでに19時半を回っていた。夜の闇に「SUNSEAL SANO」という大きなネオンサインが浮かび上がる。どっしりと風格のあるファサードだ。

夜間のファサード。店内はワンフロアだが高さがあり、ネオンサインが堂々と浮かび上がる

門川町は、延岡市の南に隣接する小さな町で、人口は1万6240人(2026年4月1日現在)。サンシールさのは、日向灘に突き出す遠見半島の付け根にある。

店舗の北側には鳴子川という河川が流れ、東側には日豊本線の線路と国道388号が南北に走っていて、その向こうは海。決して好立地とはいえない、静かなエリアにある。

九州の地図とサンシールさのの立地

この日は店内をぐるりと一周して軽く見学し、明日からの取材に備えて早めに休んだ。わかめアニキはいつもの通り、駐車場に停めた絆号で車中泊。私の方はお店から徒歩5分のところに「ファミリーロッジ旅籠屋」というゲストハウスがあり、そこに2泊する。

「めっちゃいいスーパー!」と絶叫するお客様

翌朝9時、お店に向かう。わかめアニキとお店の皆さんに挨拶をして、さっそく取材開始。昼頃に佐野政男社長へのインタビューをする予定になっている。それまで売場の写真を撮影することにした。

店内でライブ販売中のわかめアニキ。この日は松前漬けの試食を提供
わかめアニキの「乾物マルシェ」

売場を回って写真を撮っていると、驚くべき光景に出会った。

「めっちゃいいスーパー!めっちゃいいスーパー!」

と嬉しそうに声を上げて店内を小走りしている奥さんがいたのだ。ご主人と2人の子どもが少し離れたところにいて、そちらに駆け寄っていくところだ。落ち着いた頃を見計らって、奥さんに声をかけた。

私
「失礼ですが、『めっちゃいいスーパー』と言って走っているのを見てしまいました。何がそんなによかったのですか?」

奥さん
「見られていましたか(笑)。入り口で自然食品のフェアをやっていて、お菓子がもらえたので」

この日は店頭の催事スペースで、株式会社創健社とメーカー6社による『自然食品フェア』を開催。別棟のコミュニティスペースでは各メーカーによるセミナーも実施するなど、かなり本格的なフェアだ。地方の単独スーパーで、自然食品のフェアをこれだけの規模で行っているお店は珍しいだろう。

店頭では、メーカー6社が出展する『自然食品フェア』を開催

改めて、店の入り口から店内を紹介していこう。

催事スペースを抜けると青果コーナーが広がる。一番手前の平台では、グレード感のある果物を値頃で販売。さらにその手前で有機栽培の国産レモンを突き出しで陳列していた。有機レモンを扱っているスーパーでは、たいてい多段の冷蔵ケースに陳列していることが多い。それをお客様から真っ先に目に入る位置に置くことで、安心安全な商品を推している店であることをアピールできる。

さらに、アールスメロンやフルーツギフトなどの贈答品、「羅漢果」やマカデミアナッツ、地元産直コーナーの「へべす」など、一般的なスーパーでは見かけない商品がずらりと並んでいる。

青果コーナーでは、グレード感のある商品を値頃な価格で販売。一番手前の突き出しでは、産地直送の有機レモン(井上農園瀬戸田農場)を売り込む
茨城県産のアールスメロン。つるの部分にゴールドのリボンが巻いてあるのがオシャレ。下段のフルーツギフトも充実
中国広西省桂林特産の「羅漢果(らかんか)」。清朝の時代に「羅漢」という医師が薬効を発見し、中国の民間療法では「不老長寿の神果」と呼ばれているらしい
「すだち」でも「かぼす」でもない、「へべす」。宮崎県北部・日向市発祥の柑橘で、酸味がまろやかでクセがなく、料理にもスイーツにも使いやすい

2種類の「和牛」を取り揃える、最高峰の精肉コーナー

青果コーナーを抜けると、次は精肉コーナー。

ひと回りしてみると、牛肉、豚肉、鶏肉、ハムやソーセージなどの加工肉、どのカテゴリーも相当こだわった商品を品揃えしている。

広々とした精肉コーナー

実は、サンシールさのの精肉部門は別会社の有限会社マルエスによって運営されている。マルエスの佐野晴男社長は、サンシールさのの佐野政男社長の実の弟である。つまり、「兄がスーパー全体の経営、弟が精肉部門の経営」という分業体制を取っている。

有限会社マルエスの佐野晴男社長

取材当日は晴男社長はあいにく留守だったが、長男の佐野元春さんが売場を詳しく案内してくださった。元春さんは20歳でマルエスに入社して、今年で13年目を迎える。後継者として、精肉の知識と技術を着々と習得中だ。

 元春さん
「当社では、『家族の健康、まずは食卓から・・・』というコンセプトを掲げています。精肉部門でも、お客様の健康に配慮した品揃えを常に意識しています。特に、遺伝子組み換え飼料をなるべく使わずに飼育された牛・豚・鶏を揃えることにこだわっています」

有限会社マルエス精肉部の佐野元春さん。手に持っているのは「あか牛」のサーロインステーキ用

遺伝子組み換え(GMO)飼料とは、除草剤を散布しても枯れにくい耐性を持たせたり、害虫が食べると死ぬような特性を付与したりするために、遺伝子を改変して栽培されたトウモロコシなどの飼料を指す。こうした飼料を家畜に与え、その肉や乳製品などを最終的に人間が摂取することで、人体への影響を懸念する声もある。

それを避けるために、サンシールさのではできるだけ非遺伝子組み換え(NON-GMO)飼料で育てられている牛・豚・鶏を品揃えしている。

その筆頭が、「放牧あか牛」(阿蘇うぶやま村 上田尻牧野組合)だ。

「あか牛」について簡単に説明しておこう。あか牛は「和牛」の一種である。和牛と呼称できる品種は、①黒毛和種、②褐毛(あかげ)和種(=あか牛)、③日本短角種、④無角和種の4種に限られる。そのうち流通量の約95%を黒毛和種が占めており、残る3品種は合わせても約5%しか流通していない。

つまり、あか牛は和牛の中でも非常に珍しい。しかも、放牧によって育てられ、トウモロコシなどの穀物飼料ではなく牧草を与えて飼育された“グラスフェッド”のあか牛となると、極めて希少な存在といえる。

元春さん
「阿蘇に行くと、あか牛が山の中で散歩しているところが見られます。お母さん牛と子牛が外で一緒にストレスなく歩いているんです。通常のあか牛は牛舎の中で育てられますが、放牧あか牛は山の中で育ちます。放牧のあか牛は、通常の流通では基本的に出回りません」

サンシールさのでは、放牧あか牛を一頭買いしている。売場にはシャトーブリアン、サーロインといった高級部位、ミスジ、カイノミなどの稀少部位などがずらり。月に1回、内臓の販売も行っている。

さらに、牛肉は雄よりも雌の方が肉質が柔らかく味が良いとされるが、2025年の夏以降は雌だけを仕入れられるようになった。放牧あか牛はサンシールさのの押しも押されぬ看板商品になっている。

「放牧褐色和牛 あか牛」の売場。主通路の突き当たり、精肉コーナーの一等地に配置している
シャトーブリアン、サーロインといった高級部位、ミスジ、カイノミなどの稀少部位、赤みの厚切りまで、品揃え豊富なステーキコーナー。一頭買いの強みを存分に発揮
もも肉ブロック、ソフトステーキなども提供。放牧あか牛の写真やPOP、焼肉1人前のグラム数を150〜200gと案内しているのも親切

放牧あか牛を全面的にアピールしつつ、宮崎といえばやはり「宮崎牛」。黒毛和種で、きめ細やかな霜降りが特徴の人気ブランド牛だ。サンシールさのでは宮崎牛の品揃えにもこだわっている。

元春さん
「宮崎牛は、A5等級以上、かつ12番以上のものだけを扱っています。お客様の中には、贈答用にサシの入った綺麗な宮崎牛を渡したいという方が結構いらっしゃるので」

牛肉の等級には「歩留(ぶどまり)等級」と「肉質等級」がある。歩留等級はA〜Cの3段階、肉質等級は1〜5の5段階で評価し、「A5」が最上位になる。これに加えて、「脂肪交雑」つまり「サシ」の入り具合でさらに1〜12の12段階で評価する。
サンシールさのでは、宮崎牛のA5ランク、かつ12番という最上級クラスにこだわっているのだ。

宮崎牛は「A5ランク」かつ「12番」という最上級クラスを品揃え

放牧あか牛と宮崎牛。2種類の和牛をここまで豊富に取り扱っているスーパーを他に知らない。

ここで強調しておきたいのは、放牧あか牛と宮崎牛の売場の位置である。以前は宮崎牛を売場の一等地に配置していたが、それを変更して、現在は放牧あか牛の方を一等地に配置している。

人工的な飼育によってサシを増やした宮崎牛よりも、放牧という自然に近い環境で、牧草を食べて飼育されるあか牛が持つ肉本来の美味しさを訴求する。優先順位の付け方に、サンシールさのの企業姿勢が表れている。

牛肉は、さらにニュージーランド産の完全放牧のグラスフェッドビーフも取り扱う。早く大きくするための穀物飼料、成長促進剤は不使用。病気予防のための抗生物質も投与していない安心安全な輸入牛だ。

ニュージーランド産のグラスフェッドビーフ

この記事を書いた人

三浦慶太
フジテレビ系列『ホンマでっか!?TV』などに「スーパーマーケット評論家」として出演し、スーパーの魅力や面白さを発信しています。元『食品商業』編集長。スーパーマーケットゼミナール合同会社代表/中小企業診断士/社会保険労務士

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