欧州委員会によると毎年、世界の海洋に流れ込むプラスチックごみの量はおよそ1,000万トン。ドイツでも飲食業界を中心に使い捨てプラスチックは削減の方向で動いており、プラスチックフリーをコンセプトとした量り売り専門店はひとつのトレンドとなっています。
しかしスーパーやドラッグストアなど消費の中心である通常の小売店に並ぶのは、プラスチック製パッケージの製品ばかり。流通や品質保持、加工面で優れたプラスチックは小売の現場では未だに切っても切り離せない存在となっています。
そこに切り込んだのがドイツ第2位のパスタメーカーである「ALB・GOLD Teigwaren」です。創業から50年になる家族経営の企業ですが、国内外のパスタメーカーを傘下に収めており、その売上高は現在、約8,000万ユーロ(約96億円/1ユーロ=120円換算)。ドイツの伝統的なヌードルからグルテンフリーパスタ、アジア風の乾麺まで豊富な品ぞろえを誇ります。
その中で昨年、社名を冠したオーガニックライン「ALB・GOLD」から発売されたのがプラスチックフリーをコンセプトに掲げた紙製パッケージのパスタです。
製品はデュラム小麦を使用した4品目とディンケル小麦を使用した3品目の合計7品目。パッケージ表面は当然ながらラミネート加工がされておらず、正面には“紙でパッケージングしています”の文言と、パスタの種類が分かるように中身の写真がプリントされています。
FSC認証の紙を使用し、ウォーターベースのインクで印刷を行うなど、環境負荷軽減やサステナビリティにも配慮されています。
流通量の限られた小規模メーカーや市場での対面販売を主とする生産者が紙製の袋を使用するケースはありますが、全国流通規模のメーカーがこのような製品を手掛けるのはほぼ初めて。現在、大手ドラッグストアやオーガニックスーパーなどでこの製品は販売されています。
今回、ALB・GOLDにメールで問い合わせをしたところ、マーケティング担当のKlumpp氏から熱のこもった回答を得ましたので抜粋して紹介します。
1.消費者や小売店からどのようなリアクションがあったか?
通常、消費者からメールやSNSでポジティブなフィードバックがあることはとてもまれ。しかし今回は、プラスチック問題に対して行動したことを高く評価するメールを多くもらった。小売店はこの製品を評価し難く、最初はとても控えめな反応だった。しかし大手ドラッグストアで販売されるようになり、次第に取り扱いが増えた。同様に多くのNGOからは称賛され、今でも食品メーカーのプラスチック問題への対応事例としてよく意見を求められている。
2.パッケージコストは高いのではないか?
プラスチック製パッケージの場合は統一した袋と個々の製品ラベルを使うため、確実に低価格になる。紙製パッケージの場合は、製品ごとに印刷が必要なため、まだコストは高くつく。今現在、版代を削減し、生産量を増やしているので、中期的に見れば価格を抑えられるはずだ。
3.賞味期限に影響はないのか?
通常の陳列における乾燥や低温、光の影響などに対して、プラスチック製パッケージと同じ長さの賞味期限になる。高湿度や水には耐性がないが、パスタをざぶりと水に入れておく人はいないだろう。
(筆者訳)
このような紙製パッケージは破れやすい、汚れやすい、水に弱いなど、販売上のデメリットが多く、小売店からは敬遠されがちです。しかしALB・GOLDの事例が示すのは、プラスチックフリーに対する社会的関心の高さ。そしてプラスチックフリーというコンセプトを示すことで、デメリットをカバーするほどの付加価値につながったということです。
日本で同様の試みをしようとした場合、高温多湿な気候で食品の品質が保てるのか、パッケージコストに見合う製造数を確保できるのかなど、メーカー側が検討すべき課題は多々あるかと思います。中でも一番の課題は販売先の確保ではないでしょうか。今までにない試みに小売店側が難色を示すのは目に見えています。
だからこそ今回、このコラムで声を大にして言いたいのは、小売店側にこそ消費を変える意識を持ってほしいということです。プラスチック問題に注目が集まる今は、小売店にとっても企業姿勢をアピールできるチャンス。メーカーと小売店とが一丸となって新しいアクションを起こしてほしいものです。
この記事を書いた人
神木桃子(こうぎももこ)
ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。