ドイツ・ニュルンベルクで2020年2月12日(水)~15日(土)に開催された世界最大級のオーガニック専門見本市「BIOFACH 2020」。出展社の約3割、来場者の約5割がドイツからの参加(2019年実績)ということもあり、ドイツが牽引するEUオーガニック食品市場をターゲットとする企業にとっては欠かせない見本市となっています。

日本企業にとっては、2019年2月に発効した日EU経済連携協定(EPA)によって、緑茶や、味噌や醤油などの調味料の関税が即時撤廃されたことはかなりの追い風。拡大するEUのオーガニック食品市場に向け、日本のオーガニック食品を売り出す絶好の機会とも言えます。

今回は販路拡大を目指してビオファに出展した日本企業の様子や、それを支援するジェトロの取り組みについて紹介しながら、海外進出を検討しているメーカーがチャンスをつかむためのヒントを探っていきたいと思います。

ビオファ会場に設置されたジェトロによるジャパンパビリオン(筆者撮影)

集客力を高めたジャパンパビリオン

ジェトロによるジャパンパビリオン設置は3年連続5回目。今年は「日本の発酵と職人技術」をコンセプトに掲げ、味噌などの発酵調味料や、緑茶や煎茶など職人技が光る日本産オーガニック食品を扱う13社が出展していました。

多くの来場者の目を引きつけていたのが、ビオファの会場であるMessezentrum Nürnbergの入口脇に掲げられていた“JAPAN”の文字と味噌の写真が印象的な特大ポスター。同様のポスターはカンファレンス棟にも設置され、各所でジャパンパビリオンをアピールしていました。

会場入口近くに掲げられたジャパンパビリオンのポスター。JAPANの文字の下に「Fermentation & Craftsmanship(発酵と職人技術)」と記載されている(筆者撮影)

例年にはない力の入れようを感じたのはジャパンパビリオン内に設置されたデモンストレーションブースです。寿司屋を思わせる横長のオープンカウンターが設置され、座りながら調理の様子が見られます。

ジャパンパビリオンのデモンストレーションブース。シェフの後ろには真上からのカットを映すスクリーンも(筆者撮影)

デモンストレーションで提供するレシピと使用食材の説明をまとめたリーフレットを配布(筆者撮影)

パビリオン運営を担当するジェトロベルリンによると現地の嗜好に合わせるべく、出品者の食材を用いたレシピ開発と会場での調理デモをベルリンの企業に依頼。これが功を奏し、定期的に開催されるデモンストレーションでは多くのバイヤーが足を止め、試食をする姿が見受けられました。

魅力的なブースづくりで商談率アップ

ポスターやデモンストレーションを通してジャパンパビリオンに人を集めたとしても、成約まで結びつくかどうかは各社の取り組み次第。

ブースづくりで目を引いたのは今年で2回目のビオファ出展となる深見梅店です。主力の梅干しだけでなく、EU市場ではまだ認知度の低い梅酢やねり梅、赤しそふりかけなども出品。加えて動画で梅の栽培風景を紹介するなど、バイヤーが思わず足を止めたくなるブースでした。

製品説明する深見梅店の深見代表(筆者撮影)

お茶関連の出展が重なる中で奮闘

一方、同じく2回目の出展となるお茶の沢田園は集客に苦戦していました。というのもジャパンパビリオンに出展した13社のうち、なんと8社が緑茶や抹茶などお茶関連のメーカー。産地やお茶の種類など各社で細かい違いはあるのですが、ここにもお茶、そこにもお茶と言った印象は否めません。

それでも昨年出展した経験を活かして、お茶を透明な容器に入れて見せたり、和の雰囲気を演出したりとアピール方法を工夫。同社の澤田社長は「出展することで学ぶことは多い。今後もビオファには出展していきたい」と前向きなコメントを寄せていました。

淹れたてのお茶をふるまうお茶の沢田園の諏訪課長(筆者撮影)

理想を言えば、メーカーの枠を超えて“チーム日本茶”ブースを設置する、日本茶の魅力を伝えるテイスティングイベントなどが出来れば各社の製品に焦点が当たりやすくなり、新たな需要を生み出すことにつながったのではないかと思います。

パビリオン設置やデモンストレーション実施などジェトロだからこその支援力はとても大きいですが、今回のような事例を見ると、もう一歩踏み込んだ支援ができないものかと感じずにはいられません。

独自ルートで販路拡大を目指す

日本企業の姿はジャパンパビリオン以外にも。ドイツ企業が集まるエリアで椎茸の被り物をつけて自社製品の干し椎茸を紹介していたのは杉本商店の杉本専務です。当初は取引先であるインポーターの「NIHON MONO」に製品供給するだけの予定でしたが、トラブルが生じて急遽ビオファに参加したとのことでした。

日本の有機酢や有機醤油なども扱う「NIHON MONO」で干し椎茸を紹介する杉本商店の杉本専務(筆者撮影)

杉本専務によるとアメリカでは通販での売上が堅調な一方、ヨーロッパは伸び悩んでいたとのこと。以前に参加したベルリンの商談会で、干し椎茸はヴィーガンを志向する人からのニーズが高く、そのような客は実店舗での購入頻度が高いことがわかり、インポーターを通じたビオファ出品を選択したそうです。

ヴィーガンシェフが提案する新たな日本食

杉本商店の例に代表されるように、日本食材を売り込むうえでヴィーガンは重要なキーワードとなっています。それを改めて感じさせられるひと場面がビオファでもありました。

ジャパンパビリオンが設置されているホールにはヴィーガンをテーマとしたエリア「Experience the World of VEGAN」があります。このエリア内のクッキングショーブースで初日に開催されていたのが、ベルリンで人気のヴィーガンレストランを営むジョシータ・ハルタント氏による「Vegan Japanese」です。

クッキングショー「Vegan Japanese」の様子。左側で調理を行っている女性がハルタント氏(筆者撮影)

日本の伝統的な食文化にインスパイアされたというオリジナルレシピには、昆布や干し椎茸の出汁、味噌や醤油などおなじみの日本食材がたくさん登場します。にもかかわらず、完成した料理の見た目はイメージする日本食とはかけ離れたものでした。筆者も試食しましたが、奥深い味わいで、見知った食材の新たな一面を感じるものばかり。中には試食しながら熱心にレシピをメモする人もいるなど、参加者の関心の高さがうかがえました。

クッキングショーでふるまわれた料理のひとつ。お好み焼きをアレンジし、味噌ドレッシングを合わせたプレート(筆者撮影)

ヴィーガンでブランディングを図る群馬県

ジャパンパビリオンからすぐの距離で開催されていたこのクッキングショー。ショーの後はジャパンパビリオンへと足を運ぶ人も複数見られました。

このイベントもジェトロによる運営なのかとジェトロベルリンの担当者に聞いてみたところ、答えは「ノー」。全くの偶然だそうなのです。

しかし詳しく聞いてみると、ハルタント氏が日本の食文化への造詣を深めることになったきっかけには、ジェトロ群馬による「群馬ヴィーガンプロジェクト」がありました。このプロジェクトは県内でのヴィーガンへの理解と飲食店の対応強化を目的として海外シェフを招聘するもので、ハルタント氏は昨年2度にわたって群馬県を訪問。県内の生産地や加工場の視察、県産品を使用したヴィーガンレシピの試食会などを行いました。

群馬ヴィーガンプロジェクトで招聘された海外のシェフ達が県内の産地を訪問した際の様子。左端がハルタント氏(写真:ジェトロ群馬提供)

ジェトロ群馬によると招聘したシェフには自国へ帰国後、現地メディアなどにヴィーガンプロジェクトや日本に関して発信してもらうことも想定していたそう。その点では今回のビオファのケースは想定通り、もしくはそれ以上の相乗効果を生み出していました。

拡大するヴィーガン市場がターゲット

ジェトロ群馬の事例でも示されたヴィーガンと日本食材との相性の良さ。日本独自の発酵や出汁の文化、多様な食材や調理法などがヴィーガンの人には魅力的に映るのでしょう。

気候変動運動の高まりで肉食を避ける動きも広がっており、世界のヴィーガン市場は今後も拡大することが予想されています。

日本のオーガニック食品はプラントベース(植物性)の食材が多く、ヴィーガンにはうってつけです。「ヴィーガンメニューには日本食材が欠かせない」と言われるまでのポジショニングを業界全体で目指すのもひとつかもしれません。

この記事を書いた人

神木桃子(こうぎももこ)

ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。

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