オーガニックスーパーにずらりと並ぶビールやジュース。その多くはガラスびんで、プライスカードには「Mehrweg(リターナブル)」と書かれています。あなたがその中から一本、オレンジジュースを買ったとします。飲み終えたガラスびんはどうしますか?

日本であれば資源ごみとして出すところですが、ドイツではスーパーに返却するのが一般的。なぜなら、返却することで15セント(約18円)の「デポジット(預り金)」を受け取れるからです。

ドイツのデポジットシステムとは?

増え続けるプラスチックごみ問題の解決策として、ドイツでは飲料容器に対し、ふたつのデポジットシステムが運用されています。ひとつは飲料メーカーが自主的に制度化している、リターナブル容器のデポジットシステム。もうひとつは法律で規定された、ワンウェイ(使い捨て)容器のデポジットシステムです。

【リターナブル容器のデポジットシステム】

●容器の特徴
洗浄し、再度充填される「リユース型」。製造コストと資源を削減できる。
例.ビールやジュースのガラスびん、リユース用ペットボトルなど

●デポジットシステムの特徴
業界が自主的にデポジットシステムを導入している。

【ワンウェイ容器のデポジットシステム】

●容器の特徴
細かく粉砕されたのちに、再加工される「リサイクル型」。
例.ミネラルウォーターや炭酸飲料のペットボトル、ビール缶など

●デポジットシステムの特徴
国が法的に容器の製造・販売に関わる事業者に回収・分別の責任を負わせ、強制的なデポジットシステムを導入している。

日本でもビールびんを返却すると保証金が受け取れる制度が存在しますが、ドイツの場合、デポジットの対象はかなり広範囲。ビールにワイン、ミネラルウォーターにジュース、清涼飲料水など。

ミネラルウォーターひとつとっても、下の写真のように、左からワンウェイペットボトル、リターナブルびん、リターナブルペットボトルの製品が存在します。

ドイツで流通しているミネラルウォーター製品。どれも購入時にデポジットの支払いが発生する(筆者撮影)

リターナブル容器は、容器の素材に関わらず、飲料の種類によってデポジット額が分かれています。一方のワンウェイ容器は、一律のデポジット額。金額はリターナブル容器よりも高く設定されています。

【リターナブル容器のデポジット額】

【ワンウェイ容器のデポジット額】

出処:Arbeitskreis Mehrweg GbR、Bund Getränkeverpackungen der Zukunft GbRホームページより作成
(1ユーロ=120円換算)

デポジットシステムが目指すべきものとは?

ビールびんに代表されるように、ドイツでは伝統的にリターナブル容器を使う文化が定着していました。リターナブルのペットボトルは25回、ガラスびんは50回も繰り返し使えるため、環境負荷を低く抑えることができます。そのため、ドイツ連邦政府も環境政策の一環として、リターナブル容器の利用を推進してきました。

しかし高度経済成長期以降、大手メーカーによるワンウェイ容器の製品が台頭し、リターナブル容器の割合は年々低下。2003年より強制デポジット制度が導入され、ワンウェイ容器にデポジットが課されることになりました。この制度によって、リターナブル容器の利用促進と、ワンウェイ容器の回収・リサイクル率の向上、空き容器の廃棄防止が図られることとなり、現在にいたります。

オーガニックスーパーにはリターナブルびんのビールがずらりと並ぶ(筆者撮影)

では、実際に効果は上がっているのでしょうか。デポジットによってワンウェイ容器の回収・リサイクル率が上がり、街の清浄化にもつながったと評価される一方で、リターナブル容器の利用促進にはつながっていないようです。

ドイツ連邦環境省によると、2014年のリターナブル容器の割合は、ビールに限れば80%以上を維持していますが、飲料全体でみると45%程度にとどまっています。この背景として挙げられるのが、ディスカウンターを中心に、ワンウェイ容器を使用した安価なミネラルウォーターや清涼飲料水などが増えていること。また、リターナブル容器と同じようにデポジットがかかっているため、「ワンウェイ容器も環境に優しい」と誤ったイメージを持つ人も多いようです。

この状況を受け、ドイツ連邦政府は2019年に施行した「包装法(Verpackungsgesetz)」において、この数値を70%に引き上げることを目標として掲げています。リサイクルからリユースへ、明確に舵をとって進もうとしているドイツ。デポジットシステムには、循環型社会に向けて、消費の形を変える大きな役割が課せられています。

この記事を書いた人

神木桃子(こうぎももこ)

ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。

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