ここ数年、日本でも聞かれるようになったプラントベース(Plant Based)という言葉。2月に開催されたオーガニック食品の国際見本市・BIOFACH 2021では、ヴィーガンに代わるトレンドキーワードとして紹介されるなど、このマーケットの成長性に注目が集まっています。

トレンド移行の背景には肉食を避ける傾向

ドイツ・ホーエンハイム大学のバイオエコノミクスリサーチセンターが取りまとめた白書「PLANT-BASED FOR THE FUTURE」(2021年)によると、2016年以降、ヨーロッパではヴィーガンと名乗る人の数が130万人から260万人へと倍増。さらに、ベジタリアン、ペスカタリアン、フレキシタリアンなど、少なくとも一部の動物性食品を積極的に減らす、あるいは完全に排除する人たちを合計すると、人口の30.8%にもおよぶことがわかりました。

出典:「PLANT-BASED FOR THE FUTURE」

人々の食生活が大きく変化、多様化しているなか、プラントベースフードを選択する理由もまた人それぞれ。個人の利益から、気候変動への影響まで、多様な理由が存在しています。なかでも、消費者を動かす最も重要な要素としてこの白書が挙げていたのが次の3つです。

●健康上の理由
アレルギーや美容など、健康に関わる問題が、従来の動物性食品に代わる食生活を求めるきっかけとなっている。

●サステナビリティとアニマルウェルフェア
アニマルウェルフェア(動物福祉)に関するデータや知見が広く普及することで、環境や気候変動に与える影響を考慮し、倫理的に動物性食品を避けるようになっている。

●好奇心
新しい食感、味、コンセプトへの興味、そして、それを試すことへの好奇心を持っている。

特にドイツでは、アニマルウェルフェアや衛生面、従業員の労働条件など、畜産業でのスキャンダルが後を絶ちません。記憶に新しいところでは、昨年6月、食肉工場で新型コロナウイルスの集団感染が発生し、外国人労働者が劣悪な労働環境で働かされている実態が浮き彫りとなりました。

そのため、ヴィーガンやベジタリアンの食生活とは縁遠い層までが、意識的に肉食を避けるようになってきているのです。と言っても、自身の食生活や嗜好を変えるわけではなく、いつも利用するスーパーで「今日は肉の代わりにプラントベースソーセージにしよう」と気軽に手にとる程度。もちろん、この選択ができるのは、一般のスーパーやディスカウントストアにまでヴィーガンやベジタリアン製品が流通しているからこそ。もしかするとヴィーガンの定義をきちんと知らないまま、購入している人も多いかもしれません。

このような背景もあり、幅広い消費者層に向けたプラントベースという切り口が、ヴィーガンマーケットの拡大に後押しされるかたちで台頭してきているのです。

ヨーロッパではプラントベースマーケットが急拡大

2021年2月に公開された、ヨーロッパにおける、初のプラントベース分野のマーケット分析レポート「Plant-based foods in Europe: How big is the market?」 では、プラントベースフードの消費が飛躍的に伸びていることが示されています。

出典:「Plant-based foods in Europe: How big is the market?」

このレポートは、EUが1,000万ユーロ(約13億円)を投じているプロジェクト「Smart Protein Project」によるもので、2017年10月から2020年9月までのヨーロッパ11ヶ国のスーパーマーケットの小売データを基にしています。

それによると、ヨーロッパ各国では例外なく、プラントベースフードの消費が増加しており、直近2年間の売上高は49%と記録的な伸びを示しています。

ドイツがプラントベースマーケットのけん引役

なかでも、このマーケットを引っ張る存在となっているのがドイツです。直近2年間の売上高は97%、8億1,700万ユーロ(約1,078億円)の増加。特にディスカウントストアが好調で、114%と大きな伸びを示し、全体の25%を占めています。

なかでも、圧倒的なシェアを占めているのが植物性ミルク。2019年10月から2020年9月までの1年間の売上高は3億9,600ユーロ(約522億円)にもおよびます。品目別の売上高は、オートミールミルクがトップで、次いでアーモンドミルク、豆乳、ココナッツミルクの順になります。

©Berief

金額こそ植物性ミルクに及ばないものの、他のカテゴリーも堅調な伸びを記録しています。

プラントベースヨーグルトは、ディスカウントストアにおいて2年間で168%増。その多くは大豆を主原料とする製品ですが、ココナッツやルピナスを使用したものも着実に売上を伸ばしています。

プラントベースミートは223%増。冷蔵のハンバーガーパティ、ナゲット、ミンチなどが最も人気を集めています。プラントベースチーズやプラントベースフィッシュは、全体から見ると発展途上ながらも、売上は3ケタの伸び。プラントベースフィッシュは、ようやくディスカウントストアで販売が始まった段階です。

さらなる拡大のカギはバリエーションと透明性

これらの数値が示すように、ヨーロッパにおいて、プラントベースフードはニッチからメインカテゴリーへと成長を続けています。しかし、高まる需要とはうらはらに、それに応えうるだけの製品がまだないのが実情です。

©Happy Cashew

何よりも大きいのは、バリエーションが少ないこと。植物性ミルクの選択肢の多さに比べ、プラントベースミートやチーズはやや単調な品ぞろえで、プラントベースフィッシュやエッグにいたっては不足しています。

また、原料や製造過程の透明性を求める声が多いのも事実です。プラントベースはヴィーガン認証のような明確な定義がなく、現状では、添加物が多く使用されていたり、オーガニックではなかったりする製品も数多く流通しています。

今後、プラントベース分野の成長性を見据えて、企業が積極的に参入、もしくは製品開発を加速させることは確実。オーガニック製品や産地限定製品への注目度が高まり、多くの改善や変化が期待できると専門家は期待を寄せています。

この記事を書いた人

神木桃子(こうぎももこ)

ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。

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