Bioland(ビオラント)会員の有機養鶏農家、Johann Brams(ヨハン・ブラームス)さんの鶏舎を訪問。Brams氏は80haの農地を持つ有機農家で、2012年に1つの鶏舎を建て4,800羽をこの鶏舎で飼育し始めた。そして2016年にはもう一つ鶏舎を建て、2鶏舎4つの群れで9,600羽を飼育するようになったという。現在年間約76,000羽の有機食鶏を出荷している。

小高い丘を上っていくと、周りを緑に囲まれたたところにある鶏舎。有機の雛は孵卵業者から購入し、まずこの別舎で4週間Biolandの基準に従い養鶏されている。

外界からの鶏病侵入と発生を防ぐための衛生管理、温度や湿度、換気の配慮や餌や水を与える等の飼育管理が徹底される。そのため、私たちも使い捨てのツナギ服や靴カバーもつけたうえで、窓ガラス越しに鶏舎内を見させていただいた。

十分なスペースが与えられた舎内で飼育されている鶏たち。デビーク(ビークトリミング・くちばしの切断)はもちろん禁止されている。そのため、鶏たちのストレスを軽減してつつき合いを防止するためにも、室内にサイレージが置かれている。

ここで育てられている鶏は、4週間後には別の鶏舎へと移される。移動後、出荷後には徹底的に鶏舎の水洗いと乾燥が繰り返され、数回にわたり何日もかけて念入りに清掃される。当然その間は鶏を飼育できないわけなので、養鶏業の回転数という意味では非効率ということになる。清掃中(乾燥中)の鶏舎内に入れていただき見学されてもらったが、まったく匂いがしなかったことに驚いた。それをBrams氏に伝えると「私は普通以上に、特にキレイ好きなんだよ!」と言っていたが、こんな風にクリーンな鶏舎で暮らせる鶏たちは幸せだなと思った。

鶏舎の壁側にはシャッターの出入り口があり、鶏たちは隣室への移動や、天気のいい日や暖かい日には、屋外へも自由に出入りできるようになっている。

屋外側の出入り口には、数メートルほど地面が白くなっているが、これは石灰。鶏たちが外から帰ってきたときに、足についた病原微生物の持ち込みを防止するためだ。

オーガニックの養鶏では1羽あたり4㎡のスペースが必要で、1㎡当り21kg以上のブロイラーを飼育してはいけない。(1㎡8~10羽程度)。また、生涯の3分の1は外で過ごすことが必要とされている。この鶏舎外には、鶏たちがのびのびと過ごすことのできる、広々とした農地が広がっている。樹の少ないところにいくつかドーム型の緑のルーフがあるが、これは鶏たちが日陰で休める場所であるとともに、鷹や鷲などが来た時に鶏たちが逃げ込める場所だ。

「この見渡す限り緑が続く広々とした場所で、鶏たちが自由に遊べるのはいいけど、遠くへ行ってしまわないか心配じゃないの?」

と聞くと、餌のある場所からそう遠くへはいかないのだそう。

「お腹が空いたら戻ってくるよ!」とのことだった。

このような環境で育てられたオーガニック鶏は、2.3~2.5kgほどに成長した8~10週齢でト鳥される。オーガニックで育てると、平均して毎日40gずつ成長していくそうだ。およそ1kgに対し3kgのオーガニック飼料が必要だという。合成のアミノ酸やたんぱく質を添加されている餌で、十分運動できない環境で育てられた場合、1.8~2kgの飼料で育つとか。早いものでは35日程度(4~5週)でト鳥されるそうだ。そのため、一般もののブロイラー市場価格は2~2.5ユーロと安く、有機ブロイラーは1kgあたり10~12ユーロと高額になってしまう。

ビオラント養鶏アドバイザー・農学修士 Diplom Axel Hickmann氏

Bioland養鶏アドバイザーのHickmann氏によると、ここ5年間「有機食鶏」へのニーズが非常に高まってきているという。食鳥類のうち、有機の割合はまだ2%にしかすぎないが、とりわけ南ドイツでは家畜の生態に配慮して飼育された有機食鶏へのニーズが高く、加工業者や製造業者からの引き合いも強くなっている。有機の食鶏は通常の鶏肉の3倍以上も高いこともあって、まだ一部の消費者しか有機の鶏肉を購入していないが、有機の鶏肉の消費は増加傾向だ。

生産者の立場からすれば、有機養鶏ならば少しの羽数でも十分な収入が得られることになる。養鶏は比較的所定の時間内に作業を終了することができ、他の農業と並行して従事することも可能だ。それでもなぜ多くの農家が有機養鶏に参入しないのか?その理由の一つは、有機養鶏の場合、戸外の放し飼いスペースが一羽あたり4㎡以上は必要で、つまりまとまった敷地が必要となるからだ。さらに有機養鶏の為の様々な厳しい基準を満たさなければならない。このため、有機養鶏農家の伸び率は急激ではなくゆっくりとした上昇となっているという。

有機養鶏農家、Johann Brams(ヨハン・ブラームス)さんファミリー

ブラームス家も有機農家であり、有機食鶏と並行して従事している。有機農業を始める前は慣行栽培で農作物を育てていたという。ではなぜ、有機に転向したのか?と聞いてみると、そもそものきっかけは、慣行農業で十分な収入が得られなかったことからだったそう。初めは不安があったが、実際にやってみたら多くのメリットがあった。有機農業に転向してから、それまでの慣行栽培では一定の収量があったとしても、農薬や化学肥料などの購入費用がかなりの負担となっていたことにあらためて気づいたという。

「有機農業は生産者価格が高いだけでなく、農薬の購入費用等も抑えられる。環境に対して少なからず負荷がある農薬や化学肥料。これらを極力おさえて持続可能な農業をしてくことは、もはや時代の流れだし、何よりも消費者が有機を求めている。」

と、Brams氏は語った。

この記事を書いた人

オーガニックプレス編集長 さとうあき

インターネットが急速に世に広まりつつあった2002年、長年身を置いてきたオーガニック業界からEC業界へと転身。リアル店舗時代からIT化時代の変遷、発展への過程を経験し、独自の現場的視点をもつ。2010年、業界先駆けとなる“オーガニック情報サイト”誕生を実現した。「オーガニックプレス」はその確かな目で選択された情報を集約し蓄積。信頼性の高いコンテンツを提供し続けている。

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