今回で第11回となる、一般社団法人フードトラストプロジェクト主催「フードマーケティングセミナー」が5月12日開催された。今回のテーマは2月~3月にかけて催行された「米・仏・独 オーガニックマーケットスタディツアー~欧州の事例から日本のオーガニックマーケットの活性化のためのヒントを抽出する~」。ツアー参加者は、オーガニック業界関係者だけでなく、地域活性化の第一線で活躍されている方や、生産者の方、飲食業界の方など。それぞれの視点からの報告が行われるとともに、参加者レポートや現地コーディネーターからの特別寄稿も含め100ページ近くにも及ぶ、読み応えあるレポート集も配布された。

徳江倫明氏(一般社団法人フードトラストプロジェクト代表)

(社)フードトラストプロジェクト、(有)リボーン〈リボーン・エコツーリズム・ネットワーク〉は、ドイツ(2月12日~19日ニュルンベルク・ミュンヘン)とフランス(3月8日~14日パリ・ポワティエ)、アメリカ西海岸(2017年3月8日~14日サンフランシスコ・ポーランド・シアトル)のツアーを催行。現地のオーガニック専門店や農場などを視察するほか、フランスでは環境省、環境大臣補佐官との意見交換が実現。ドイツでは「Biofach2017」へ、サンフランシスコ(バークレー)では、エディブルスクールヤードで教育の場での取り組みを見聞するなど、充実のスタディーツアーとなったようだ。

ドイツ、フランス、アメリカのどの国においても、オーガニック市場の成長率が高いこと、野菜から加工食品、化粧品など生活におけるすべてにおいて、有機の選択肢が多くあること、慣行栽培との価格差が少ないこと、売場がダイナミックでスタイリッシュ・・・などということはもう言うまでもない。今回のスタディーツアー報告の中で、今一度押さえておくべきと思ったポイントは、

◎政府による明確な目標設定
◎「有機認証マーク」消費者認知度の高さ
◎地域住民の「環境意識」のレベルの高さ

この3点だ。

本レポートによれば、『フランス政府は2018年までに農薬を半減する方針を明確にしており、さらに2016年3月17日には「生物多様性・自然・景観回復法」の成立によって、すべてのネオニコチノイド系農薬禁止法案を可決。2022年からは講演や家庭菜園での農薬使用禁止の法律を公布しているという。こうした法律制定の根拠は、2015年7月22日に制定された「エネルギー転換法」の中で、大気汚染対策の一環として農薬削減策を具現化した』とのこと。

フランスの有機農業を推進する公的機関、Agence BIO(アジャンス・ビオ)全体の予算は620万ユーロにもなり、予算の85%は国から、15%はEU委員からのもの。広報活動には120万ユーロ(日本円でおよそ1億5000万円)もの金額があてられ、テレビやラジオなどのマスメディアへのスポットCM、教育機関への情報提供なども積極的に行われるそうだ。

ドイツでも、国内のオーガニック農地の割合を現在の6%から20%へ引き上げるという目標を掲げ、オーガニック農地への転換を資金面から支援することを表明しているという。

フランスもドイツも、着々と生産性至上主義農業からの転換を図ろうとしている。民間レベルだけでなく、政府をはじめ地方公共団体や公益法人等による明確かつ大胆な目標設定があり、それに向かう具体的な施策、官民あげての取り組みがあってこそだろう。

日本でも各所で有機農業の普及啓発、理解促進に関する地道な活動は行われ、補助金等の支援もある。それでも、なかなか日本ではオーガニックが広まらない。日本では「オーガニック」「有機」のいう言葉そのものは、だいぶ認知度は高まっているという印象があるがものの、「有機JASマーク」がそれを表すものであることはいったいどれくらいの人が理解してるだろうか?フランス国内の有機認証「ABマーク」については、なんと認知度98%だという。

地域住民の「環境意識」のレベルの高さについては、今回の報告会で何人もの方が言及していた。フランス郊外のオーガニックスーパーの近くの公園に、生ごみと、調理されていない有機のものとを分別したゴミ箱が設置されており、未調理のオーガニック生ごみは堆肥として再利用される。これらの分別は地域住民の自発的な行動により生まれたものだという。エコな観点からも過剰な包装をせず、量り売りによる購入は日常の暮らしに根付いている。また、国内保護や環境保護の観点からもローカルのオーガニックフードを求める傾向にある。

「安心」「安全」「健康」の視点からオーガニックを選ぶ傾向にある日本。一説では「オーガニック3.0」の時代に突入したといわれているようだが・・・いまだに根本的な考え方、土台の部分が欧州とは異なっている。このような従来の消費者の価値意識を「サステナブル(持続可能)な社会の実現」「地球環境の保全に貢献」へと、変化を促すためには何をすべきなのだろう?情報を発信する立場として、改めて考えさせられる。

※参考
「2017.05 米国 及び 独/仏 オーガニックマーケットスタディーツアー レポート集」
セミナーで配布されたツアーレポート集は後日増刷・販売予定

この記事を書いた人

オーガニックプレス編集長 さとうあき

インターネットが急速に世に広まりつつあった2002年、長年身を置いてきたオーガニック業界からEC業界へと転身。リアル店舗時代からIT化時代の変遷、発展への過程を経験し、独自の現場的視点をもつ。2010年、業界先駆けとなる“オーガニック情報サイト”誕生を実現した。「オーガニックプレス」はその確かな目で選択された情報を集約し蓄積。信頼性の高いコンテンツを提供し続けている。

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