ある日、オーガニックプレス編集長から一本の連絡が。「ドイツのマクドナルドがオーガニックバーガーを始めたってホント?!」日本から逆輸入された最新情報を受け、全容解明のために何年かぶりに、ドイツでは初めて(!)マクドナルドへと赴きました。

そのバーガーの名前は「McB.」。地域差があると思いますが、私が訪れたライプツィヒの店舗では、大きいサイズの「LONG McB.」のみの取り扱いで、単品が5.39ユーロ(約700円)、ポテトとドリンクのセットが7.59ユーロ(約1,000円)で販売されていました。値段の高さに驚きつつもセットをオーダー。ちなみに一緒に頼んだスタンダードなハンバーガーは1ユーロとマクドナルドらしい価格設定でした。

すぐにできないとのことで席に移動し、待つこと約5分。運ばれてきたのは「McB.」と書かれた箱入りのバーガー。箱には商品名と一緒に「BIO」(ビオ:ドイツ語でオーガニックの意味)の認証マークと「MIT 100% BIO-BEEF」の文字が合わせて記載されていました。そしてその下にはドイツ語で「このビオマークは牛肉に対する認証であり、バーガーに対するものではありません。」との説明文も。これはどういう意味かというと、牛肉についてはビオの認証を受けていますが、他の原材料については特に認証を受けていない、往来のものであり、“ビオ”バーガーではないという事です。

なんだか狐につままれた気分になりながらも箱を開けるとボリュームあるバーガーが出てきました。長さが約15cmと長めのパンはハンバーガーの生地よりしっかりしており、ひまわりの種がついています。具材としてはチーズの上にビオ牛肉を使用したパテ、フレッシュなルッコラ、トマト、赤玉ねぎがのせられ、マスタードソースがたっぷりとかけられています。

おそるおそる食べてみると、想像していたよりは美味しい!スタンダードなハンバーガーは日本で食べるものと味に大差がなかったのに対して、「McB.」は味の濃さは否めないものの、素材それぞれの存在感があり、手をかけている印象を受けました。件の牛肉のパテはドイツ人の好みなのでしょう、脂肪分が少なめで赤身の味が強かったです。

場所がマクドナルドなのでどうしても値段は高く感じますが、同じものをカフェで提供されたら妥当な値段と感じるのかもしれないと思いました。

サイズ比較 写真左:スタンダードなハンバーガー 写真右:McB

ドイツのメディアによると、この商品は10月1日から11月18日までの期間限定販売で、7週間でドイツとオーストリア産のビオ牛肉600トンが使用されるとのこと。この数字はドイツ国内で生産される肉の10%にあたるだろうと言われています。ドイツのビオ食品業界団体・BÖLWのレーリッヒ代表は「ファーストフードチェーン先駆者のマクドナルドがこの取り組みを続けるのであれば、ドイツの農業に影響を与えるであろう。」と発言しています。

マクドナルドのホームページでは期間中、「McB.」が大々的に宣伝され、BIOの意味、品質やマークについての説明も掲載されていました。興味深かったのは、商品紹介ページの下にアンケートコンテンツがあったことです。そこでは「マクドナルドで“ビオ”はアリかナシか?」というテーマについて投票できるようになっており、投票した人のコメントも見ることができるのです。例えば好意的な見方として「模範的で責任あることと思う。続けてほしい。」という意見がある一方で、「私は安いからマクドナルドに来ている。だからビオはこれ以上必要ない。」という意見もありました。限定販売を終えての集計結果は“アリ”が67%と、この数字を見る限りでは好意的に受け止めている人が多いようです。
(参照:http://mcb.mcdonalds.de/2015年11月18日アクセス)

ただし、ビオ牛肉しか使用していないのにも関わらず、あたかも製品そのものがビオ、マクドナルド自体がビオへと舵を切ったと思わせる宣伝戦略には疑問の声も出ています。ドイツの大手新聞「ZEIT(ツァイト)」の記事では「McB.」を「“ちょっとだけビオ”のバーガー」と揶揄し、この取り組みはマクドナルド自身のためにしかならないと批判をしています。

キヌアが入ったベジタリアンバーガー

ドイツではグリルソーセージや、それを丸いパンにはさんだ軽食をスタンドで食べる文化があるため、日本よりはマクドナルドの浸透度が低い印象を受けます。もちろん“ハンバーガー”はアメリカ文化の象徴としてドイツの若者に支持されているようですが、新しい顧客を獲得するために“健康志向”はひとつのキーワードなのでしょう。例えば一部の飲料メニュー、ミルクやアップルジュースなどはビオをそろえ、キヌアが入ったベジタリアンバーガーなどもあります。しかしホームページで公開されている各商品の使用原材料・アレルゲン一覧表を見ると、「McB.」も含め、多くのバーガー商品には着色料など添加物が使われています。本来の意味で“ビオ”を追求するのであれば、原材料そのものを見直さなければならない、その決断をマクドナルドがするのかどうか、次の一手に注目が集まっています。

この記事を書いた人

神木桃子(こうぎももこ)

ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。

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