オーガニックスーパー「クランデール新松戸店」

今回は、千葉県松戸市にあるオーガニックスーパー「クランデール」、そして、同じ敷地内にあるオーガニックセレクトショップ「COCO SEASONS(ココシーズンズ)」をご紹介します。クランデールさんの取材は、オーガニックについて何も知らない当時の自分にとって、大きな学びとかけがえのない出会いになりました。ぜひ最後までお付き合いください。
(この記事は『食品商業』2025年1月号に掲載されたものです)

スーパーマーケットはお客様に食品を販売する生業(なりわい)だ。そして、食べ物は人間の健康に影響する。ならば、なるべくお客様の健康に良い食品を売りたい・・・。

そんな思いを愚直なまでに貫いているのが、千葉県松戸市にあるオーガニックスーパー「クランデール」だ。同店の売場のうち、7割以上を有機野菜や無添加のオーガニック商品が占めている。ただし、地域住民のニーズに応えるために慣行栽培の野菜やNBの加工食品も3割弱程度は品揃えしている。

入口から奥の壁まで広がる青果売場では顔の見える地場野菜、有機・自然栽培の青果物などを多数販売

2023年3月には、クランデールの敷地内に“100%オーガニック”の品揃えを目指すオーガニックセレクトショップ「COCO SEASONS(以下、ココシーズンズ)」をオープン。

運営会社の株式会社かわた社長の川田裕司さんと取締役で妻のむつみさんに、これまでの歩みと、「オーガニック」の本質についてお話を伺った。

株式会社かわた社長の川田裕司さん(右)と取締役で妻のむつみさん(左)。
オーガニックスーパーへの道を二人三脚で切り開いてきた

オーガニックスーパーを目指したきっかけ

クランデールとココシーズンズがある松戸市は人口約50万人。千葉県内では千葉市、船橋市に次いで第3位の人口規模を誇る。ただし、店舗がある横須賀地区は市の中心部からは離れていて、JR常磐線新松戸駅から徒歩1kmのところにあり、戸建中心の住宅街でそれほど良い立地とはいえない。

オーガニックスーパーといえば、イオングループの「Bio c’ bon(ビオセボン)」、ライフコーポレーションの「BIO-RAL(ビオラル)」が思い浮かぶが、どちらも高所得者層が多く人口密度が高い都市部で展開している。地方都市の郊外でオーガニックスーパーを運営していくのは、都市部よりもはるかに難しいだろう。そんな筆者の余計な心配をよそに、クランデールの業績は安定して推移している。ただ、今に至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。

裕司さんがオーガニックスーパーを志したきっかけは、修行時代の経験にさかのぼる。裕司さんは八百屋の長男として生まれ、明治大学商学部を卒業した後、大手コンビニに入社して店長になり約4年間勤務した。それから千葉の某スーパーに転職し、包丁の使い方を覚えるためもあって精肉部門に配属された。

― 裕司さん

「最初は包丁が使えないので、内臓肉しか切らせてもらえません。細かく切ってトレーに入れるのですが、ゴリゴリしたしこりがあって、親方に『これは何ですか?』と聞くと『病気だからその部分は外せ』と言われました。でも毎日切るたびにしこりが見つかるんです。

次に鮮魚部門に配属されて、小魚から始めてアジやサバをおろせるようになっていきましたが、タイの特売をやったときに背骨がS字型に曲がっているタイがたくさん入荷したんです。『さすがにこれはおろせません』と言って先輩におろしてもらいました。その後も変な形のブリが入荷することがあって、聞いたところでは養殖の餌に混ぜている薬剤が原因のようでした。

切ってトレーに入れてしまえば、お客様は分からずに買っていきます。こういう商品をお客様に売ってもいいのだろうかと疑問を持ったのが原点です。当時通っていた商業界のセミナーで、『損得より先きに善悪を考えよう』という教えを学んでいたこともすごく大きかったです」

裕司さんが経験した内臓肉のしこりや養殖の変形魚が、実際にどのようなものだったのかは検証できない。40年近く前のことでもあり、ここで内臓肉や養殖魚の是非について論じるつもりはない。ただ、裕司さんにとってその後の人生を決定づける衝撃的な経験になったことは確かだった。

全く売れない自然食品。やむなく元の店に戻す

スーパーに約2年間勤務した後、裕司さんは実家に戻り、父が千葉県野田市で営んでいた食料品店を引き継いだ。そして、「お客様に健康に良い食品を販売したい」との思いから店をリニューアルし、有機野菜や無添加の自然食品を取り扱う店をオープンした。当時はまだ「オーガニック」という言葉は日本にほとんど入ってきておらず、「自然食品のお店」「健康食品のお店」といったキャッチで営業した。

しかし、品揃えした有機野菜や自然食品は全く売れなかった。1991年当時、バブルが崩壊し始めた頃だが、消費者にとってスーパーは安売りが当たり前で、値段の張る商品にお客様は見向きもしなかった。あえなくリニューアルから1年後、自然食品の販売をあきらめて、品揃えを元の食料品店に戻した。そうすると売上は回復した。

その後の10年間、「健康に良い食品を販売したい」という気持ちは一旦封印し、一般的な食料品店として営業を続けた。

2001年になり、2店舗目を松戸市に出店した。それが現在のクランデール新松戸店である。このとき、野田本店での失敗を踏まえて裕司さんはある作戦を立てた。

― 裕司さん

「野田の店で無農薬野菜を販売したときに、慣行栽培の野菜が100円で、同じ野菜で無農薬のものが130円ぐらいなら売れました。ただ、150円や200円になってしまうと売れません。だとすると、無農薬まではいかない『低農薬』のものなら売れるのではないかと考えました。

ちょうどその頃、大田市場で東一(東京青果)の青果部が『個性化コーナー』という部門を設けて、無農薬や低農薬の野菜をそこから仕入れられるようになりました。それが当たって、新松戸ではすごい勢いで売上をつくることができました」

さらに、2005年には新松戸店の敷地内に直売所を作った。朝採れ限定で、近隣から農家が新鮮な野菜や果物を持ってきて並べる。毎朝30人程の行列ができ、午前中のうちに売り切れるほど好評を博した。ちなみにこの直売所のあった場所が、現在はココシーズンズになっている。

東日本大震災をきっかけに、オーガニックスーパーに再挑戦

こうして順調に売上を伸ばしていった新松戸店だが、オープンしてちょうど10年が過ぎようとする2011年3月11日、東日本大震災に見舞われる。地震そのものの被害はそれほどでもなかったが、直後に起きた福島第一原発の爆発事故による影響は甚大だった。松戸市は福島第一原発からおよそ200km離れているところにありながら、事故後に放射性物質を含んだ雨が降ったことで、一般的な被ばく許容線量を超える“ホットスポット”に指定されてしまう。

原発事故の前までは、妊婦や、小さな子ども連れの若い母親がたくさん来店していた。そうしたお客様が全く来なくなり、直売所の売上は6割減、新松戸店全体の売上も4割減った。裕司さんは倒産の危機に直面しながらも、「とにかく生産者を応援しなくてはいけない」と考えて、検出限界値が2ベクレル/kgまで測れる高性能の放射能濃度測定器を購入し、農家が持ってくる野菜を測定した。そうして計測数値を示した上で、お客様に「安全ですよ」と伝えて販売した。

しかし、放射能の風評被害は根強く、それでもお客様は戻らなかった。そうした中、年配のお客様がたまたまポロッと「うちの娘は九州産の野菜を買っている」と話すのを聞いた。九州に生産者の仲間が大勢いる裕司さんは、その話を聞いてすぐに九州に飛び、仲間たちに野菜を送ってもらえるよう依頼して快諾を得た。九州産の野菜を売り始めると、母親たちのネットワークで口コミが広がり売上が一時的に回復した。「これで一息つける」と思ったのも束の間、すぐに近隣の大手スーパーが真似をして九州産の野菜を売り始め、売上は再び下がった。こうした艱難辛苦を経る中で、裕司さんとむつみさんはもう一度オーガニックスーパーに挑戦しようと考えた。

― 裕司さん

「毎月400万円ほどの赤字でした。どうせ倒産するんだったら、もともとやりたかったオーガニックスーパーをもう一度やってみようと思いました。やって前に倒れるんだったら、もうしょうがないだろうって。」

―むつみさん

「後ろ向きではなく、やりたいことに挑戦するエネルギーって強いですし、良いエネルギーですからね。現状を維持するのも大変だし、何をやっても大変なんだったら、新しいことを仕掛けるチャンスだと考えました。」

従業員たちに向けて、オーガニックスーパーを始めることを宣言した。「そんなことは無理だ」と言って辞めてしまう従業員もいた。それでも躊躇せず、1年ぐらいをかけて店全体の品揃えをガラッと変えていった。

オーガニックの品揃えに切り替えてお客様は激減

まず青果売場では、有機栽培と特別栽培のコーナーを作り、売れるにつれて売場を広げていった。一般に、有機野菜の調達は数量が少なかったり配送費がかさんだりして難しいといわれる。クランデールでは上述した東一の個性化コーナーとの取引で積み上げた信頼関係が今も続いていて、大田市場経由で仕入れることができている。オーガニック食品専門卸の風水プロジェクトなどからも仕入れている。むつみさんは風水プロジェクトに全面的な信頼を寄せていて、青果物だけでなく加工食品や輸入品なども多く仕入れている。

有機栽培・特別栽培・自然栽培を打ち出した野菜・果物コーナー

鮮魚は酸化防止剤を使用していない干物からスタートして、天然魚中心の品揃えをしていった。ただし、昨今はマイクロプラスチックによる海洋汚染が深刻化していて、天然魚であっても一概に安全とは言い切れない。一方で、餌や飼育環境に配慮した品質の高い養殖魚も出てきているので、現在は養殖魚と天然魚のどちらが良いとは一概に言えない状況が生まれている。

鮮魚売場では、天然魚をアピール。
養殖魚は抗生物質・抗菌剤を使用せずに育てた魚を仕入れている

精肉部門は、配合飼料に抗菌剤を一切使用せず治療も行わない無投薬飼育による「えばらハーブ豚未来」(江原養豚)や、コロナ禍以降には日本で初めて放牧の認証を受けた「安曇野放牧豚」(藤原畜産)の品揃えも始まった。牛肉、鶏肉も抗生物質や抗菌剤不使用のものを中心に取り扱っている。

日本で初めて放牧で豚を飼育したとされる「安曇野放牧豚」(藤原畜産)。
スーパーで購入できるのはクランデールだけ

惣菜はできるだけ手作りで、食品添加物を使わず、原材料にこだわった商品を提供している。小麦は国産、油は米油、おにぎりや寿司は有機・特別栽培米や有機寿司酢を使用している。調味料は、粗製糖、天然塩、その他「美味安心」の調味料を使用している。フライヤーには食材の油の吸収量を削減する「ドクターフライ」を導入している。

手作りのかぶの浅漬け。もちろんうま味調味料などは使用していない。
購入して食べたが自然の優しい風味でとてもおいしかった

加工食品は、当初は「美味安心」ブランドの商品を手始めに、「自然の味そのまんま」ブランドの商品など、カテゴリーごとにさらにこだわった商品を取り揃えていった。

こうしてオーガニックスーパーに舵を切り、各部門の品揃えを着々と見直していった。しかしそうした努力も虚しく、お客様の支持を得られずに売上は下がり続けたという。

― 裕司さん

「普通のスーパーから業態を変えていったので、それが一番大変でした。オーガニックに振り切った後、お客様がどんどん減っていきました。こだわって普通の商品を減らすと、さらに売上が下がる。これ以上下がると困るから、もう一回元に戻そうかと考えたり、そんなことを行ったり来たり繰り返していました」

通称「オーガニックストリート」。「さ・し・す・せ・そ」の基礎調味料から、油、
ソース、ケチャップ、マヨネーズ、粉類など、オーガニックのグロサリーがずらりと並ぶ
米は有機栽培米や自然栽培米がずらり。
幻のお米といわれる「亀の尾」「朝日」も品揃えしている(時期による)

商売を成立させるためにSNSにいち早く取り組む

やりたかったオーガニックスーパーを形にしたものの、お客様はどんどん減っていく。地域密着型のスーパーにとって、近所のお客様が離れていく恐怖は想像するに余りある。

― 裕司さん

「象徴的だったのは、店のすぐ近くに小さなお子さんを連れた奥様が住んでいらっしゃって、1日3回ぐらい来店されていたのですが、ピタッと来られなくなりました。そんなことがありながら、それでも私は従業員たちに『オーガニックに振り切る』という宣言をしたんです。オーガニックで商売を成立させるためには、遠方からお客様を呼ぶしかない。そのために頑張っていこうと伝えました。辛い時代を支えてくれた従業員には感謝しかありません。

 遠方のお客様に店を知ってもらい、来店していただくために何をしたかというと、結局は一人一人に情報を届けていくしかありませんでした。そこでワン・ツー・ワン・マーケティングに着目して、SNSに取り組み始めました」

店舗周辺に新聞折込チラシを打って「面」で集客するのが一般的なスーパーの販促だが、クランデールではSNSにいち早く取り組み、オーガニックに関心を持つ顧客層にワン・トゥー・ワンの「点」でアプローチした。今ではInstagramのフォロワー16,000人超、Facebookのフォロワー約5,500人など(2026年7月現在)、大勢のファンを持つメディアに育っている。

ココシーズンズの店内。中央の楕円形の棚が何ともおしゃれだ。
さまざまなオーガニック商品がぐるりと360度並んでいる
入口を入った目の前のプレゼンテーション。
ココシーズンズで販売する野菜果物、肉、魚の品揃え基準を記したボード

その後、コロナ禍に入って健康意識や環境意識の高い人が増えてくるにつれて、売上は下げ止まり、現在は伸長している。30年の時を経て、やっと時代が裕司さんとむつみさんに追いついてきた。

そして、2023年3月にはオーガニック100%の品揃えを目指してココシーズンズをオープンし、現在に至る。

<企業概要>
株式会社かわた
代表者/川田裕司
所在地/千葉県野田市大殿井150-210(野田本店)
千葉県松戸市横須賀1-14-13(新松戸店、ココシーズンズ)
創業/1958年10月
従業員数/42人(正社員11名/パート・アルバイト社員31人 ※2024年11月時点)
売場面積/約150坪(新松戸店)
事業内容/オーガニックスーパー、オーガニックオンラインショップ

COCO SEASONS オンラインショップ
https://coco-seasons.jp/

この記事を書いた人

三浦慶太
フジテレビ系列『ホンマでっか!?TV』などに「スーパーマーケット評論家」として出演し、スーパーの魅力や面白さを発信しています。元『食品商業』編集長。風水プロジェクト准執行役員/スーパーマーケットゼミナール合同会社代表/中小企業診断士/社会保険労務士

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