ドイツで一番大きな有機農業協同組合、Bioland(ビオラント)会員の有機産卵鶏農家へ訪問。養鶏農家のJosef Höflsauer(ヨーゼフ・ヘーフザウアー)さんは、2010年10月より有機産卵鶏の飼育に着手。現在2鶏舎でBiolandの基準に従い、6,000羽の採卵鶏を育て1週間で約30,000個の卵を採取している。

Höflsauer氏は、「産業として大規模に運営されている養鶏はやりたくありません。有機農業こそ自分の歩むべき道で持続可能な、畜産の生態に配慮した飼育を心がけ、健康な食品の生産に努めていきたいと思います。」と誇らしげに語る。

近所の方が直接買いに来ることもあり、生みたての新鮮な卵が入り口でも販売されていた。

鶏舎の周りには広々とした農地が広がり、森に囲まれた場所にある。

EU基準とBioland基準の差の一例を見ると、Bioland基準は耕地面積が必要であるのに対し、EU基準は耕地面積は求められていない。また、1ha当りEU基準では230羽、Bioland基準では140羽の採卵鶏収容羽数と定められている。

ウインドレス鶏舎とは違い、窓からは明るい自然光も入り、空気の出入りも自由な構造の鶏舎。鶏たちが鶏舎内を自由に行き来ができるのはもちろんのこと、外にも放し飼いができるようになっている。

鶏舎から出るとすぐに放し飼いの飼育スペースが確保されており、およそ1,400本のりんごの木が植えられている、もちろん、Biolandの基準によるBIO(オーガニック)りんごだ。これらは、夏には木陰となり、鷲や鷹など大型の鳥被害から身を守るための避難所となっている。

「自然に落ちた果実を鶏がついばむことで、天然のビタミンC補給にもなるんだよ。」と語るHöflsauer氏。また、鶏が落とした糞(排泄物)も、落ち葉とともにバクテリア等の微生物によって分解され、そのままりんごの樹の栄養となって循環している。

ここで暮らす鶏たちは、ケージ(籠)飼いのように窮屈な場所で閉じ込められることはなく、行動や運動は制約されない。自分の好きな時に止まり木に登ったり、歩き回ったり、好きなエリアで過ごすことができるのだ。つつき合いなどを防止するためのデビーク(ビークトリミング)、くちばしの切断などもされることはない。

そして、採卵エリアで産み落とされた卵は、緩やかな傾斜で運ばれる。

そして、ここで卵のサイズを分けたり割れなどを手作業でチェック。卵ひとつひとつに記号が印字され、出荷のための準備がされていく。

卵にこの印字をすることは、法律によって定められていること。文字や数字にはそれぞれ意味があり、生産国や鶏舎、有機や平飼いなど生産方法の履歴がわかるようになっている。

はじめの「0」は、BIO(オーガニック・有機)であることを指している。

0=Biowareng (有機)
1=Freilandhaltung (屋外飼い)
2=Bodenhaltung (鶏舎飼い)
3=Käfighaltung  (ケージ飼い)

次の「DE」は、ドイツで生産されたという意味。
AT=オーストリア
BE=ベルギー
DE=ドイツ
DK=デンマーク
ES=スペイン
FR=フランス
NL=オランダ

最後の7桁の数字は、どこの地域か(州など)、生産者は誰かを示す生産者番号、そしてどの鶏舎で育ったかの鶏舎番号が記されている。

ばら売りでも、有機かどうか、生産国はどこかが一目瞭然。生産履歴(トレーサビリティー)の確認もできる。また、たとえパッケージが有機であっても中の卵の番号が違えばわかるので、詰め替えの不正なども防ぎやすいだろう。

有機卵の市場価格は通常の1.2倍くらい?と聞いたので、一般のスーパーで販売されている事例をチェックしてみた。ドイツでは既にケージ飼育の卵は禁止されているため、有機卵と平飼い卵との比較になるが、スーパーreweのある日の価格は

・有機卵 6個入り 2.49ユーロ(およそ328円) / 1個あたり0.41ユーロ(およそ54円)
・平飼い卵 6個入り1.79ユーロ(およそ235円) / 1個あたり0.29ユーロ(およそ38円)

だった。このスーパーでは有機卵は平飼い卵に比べおよそ1.4倍だ。

ちなみに、数年前の写真だが、ドイツニュルンベルグのオーガニックスーパーで見た有機卵の価格表。

DEMETER、NATURLAND、BIOLAND、各団体のものをそろえていたのが印象的だ。やはりDEMETERはやや高めだ。そして、同じ有機認証の卵でも、オーガニックスーパーはやや高め。一般のスーパーはかなり価格を安く設定してきている。これは、今回スペインのオーガニックスーパーと一般スーパーの比較でも同じ傾向だった。スーパーやディスカウントショップなど、専門店に行かなくとも有機卵が買える時代となり、価格競争がますます厳しくなっているようだ。生産者は価格訴求ではなく価値向上のため、同じ有機であってもさらなる厳しい基準を設ける団体に属するなど、差別化を図ることも求められている。

日本でも有機JAS認証の卵はあるが、生産者も流通量も少なくまだまだ価格が高い。最近では平飼い卵は一般のスーパーでも目にするようになったものの、一般のケージ飼い卵がほとんど。常に「特売」の目玉品となっていることも多く、価格差は大きい。

差別化といえば、日本では「有精卵」を好む方も多くいる。ドイツではどうなの?と聞いてみたところ、まず「有精卵」が流通していること自体が驚きだったようだ。

「え?日本では有精卵売ってるの?」
「万が一、お客様が卵を割った時に胚ができてたらどうするの!?」

と、逆に質問されてしまった。

「有精卵」とは、雄と雌の鶏を一緒に飼うことで、鶏が交尾して生まれる卵。つまり温めるとヒヨコになる可能性がある、受精した卵だ。一般に販売されている卵はほとんど「無精卵」。平飼いは有精卵、茶色い卵は有精卵、と思い込んでいる方も多いが、平飼いだからといって有精卵というわけではなく、有機だから有精卵というわけでもない。白と茶の色に関しても同じく、栄養価などに大きな違いは認められないのだが、茶色のほうがナチュラルな印象があるようだ。日本では「有精卵」は鶏にとって自然な飼育方法というイメージがもたれ、一部の消費者の間で支持されている。

「日本人は、製品や生産物にまつわる背景やストーリーを大切にするんですよ。」

と説明してみたが、それでもあまり納得はできない様子。そんなのナンセンスだよとでも言いたそうな顔だ。ドイツでは鶏に与える餌や、アニマルウェルフェア(動物福祉)の考えに基づく住環境、合理的な流通のためのシステムが重視される。そういえば、台湾では宗教上、有精卵は選ばれないという話を聞く。国によって考え方は様々だ。

この記事を書いた人

オーガニックプレス編集長 さとうあき

インターネットが急速に世に広まりつつあった2002年、長年身を置いてきたオーガニック業界からEC業界へと転身。リアル店舗時代からIT化時代の変遷、発展への過程を経験し、独自の現場的視点をもつ。2010年、業界先駆けとなる“オーガニック情報サイト”誕生を実現した。「オーガニックプレス」はその確かな目で選択された情報を集約し蓄積。信頼性の高いコンテンツを提供し続けている。

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