今回のNatural Products Expo West 2023で、ちらほら見かけた“Bee Free”の文字。Bee Freeというのは、つまり“蜂の存在なしで作られた蜂蜜”を意味する。

はちみつはミツバチが集めた花の蜜なので植物由来と考える人もいるが、集めた花蜜はミツバチの体内の酵素の働きによる変化などの工程を経てできるものであり、成長のための栄養源にもなってることから、動物からの搾取にあたるということで、ヴィーガンの観点からは動物由来と考えられ避けるべき食品と認識されている。

また、世界的にもミツバチの減少が報告されているなか、できるだけ犠牲となるミツバチを減らして生態系を保護しようという考えから、Bee Freeという選択をする人も多い。

蜂蜜の代替品というと、まず最初にイメージするのがアガベシロップやメープルシロップ、ココナッツネクターなど。これらは従来からある健康的な植物由来の甘味料で、お砂糖の代わりに料理に使ったりできる。展示会で目にした“Bee Free”は、広義ではこれらの代替甘味料も含まれるが、動物由来の原料を使わずに、より本物の蜂蜜の風味に似せて作られたものを指している。何故なら、アガベシロップなどの甘味料は植物由来ではあるが、蜂蜜のあの少し粘り気のあるとろみ、深みあるコク、蜂蜜特有の風味は再現できず、全く別物だからだ。

植物由来のはちみつMeliBio「Plant-Based Honey」

可愛いクマのサンプルボトルと“Plant-Based Honey” “Made Without Bees”の文字を見て、思わず引き寄せられたブース「Mellody」は、世界で初めて、ミツバチを使わずに蜂蜜を作ることに成功したという話題のスタートアップ企業、MeliBio社による出展だ。

MeliBio社は、2020年にカリフォルニア州バークレーで設立。2021年にはフードサービスなどBtoBで原料として一部の地域で販売していたが、今回のNatural Products Expo West 2023では「Mellody」製品の初展示となった。

ミツバチを使わずに作られた蜂蜜とは

アガベシロップなど、似たような用途の食品を代用するのではなく、シロップに人工香料を加えて蜂蜜風の味にしたものでもなく、分子レベルで蜂蜜と同等のもの、とのこと。本物の蜂蜜は、蜜蜂によって採取された花蜜の成分、スクロース(しょ糖)が、ミツバチの体内酵素などによってフルクトース(果糖)とグルコース(ブドウ糖)に変化してできるもの。これらをどうやって、ミツバチなしで再現するのか?興味深い。

MeliBio社の製造方法はまだ謎に包まれてる部分が大きいが、ミツバチが蜜をつくるための行動や消化のプロセス、蜂蜜の分子構造を分析し、精密発酵(precision fermentation)技術を利用して、ミツバチを使わずに本物の蜂蜜と分子的に同じものを生み出しているという。

原材料表記を見てみると、

INGREDIENTS:Plant-Based Honey(Fructose, Glucose, Water, Less than 2%of:Plant Extract Blend(Sumac, Fava D’anta, Indian Trumpet Flower, Green Coffee Bean, Chamomile,Seaberry)、Gluconic Acid, Natural Flavors)

原材料:プラントベースハニー(フルクトース、グルコース、水、2%未満の植物エキスブレンド(スマック、ファヴァ・ダンタ、インディアン トランペットの花、グリーンコーヒー豆、カモミール、シーベリー)、グルコン酸、ナチュラルフレーバー)

植物エキスは日本では聞いたことのないものがあるが、調べてみると、Sumacは中東料理などで酸味を加えるために香辛料として使われるもの。 Fava D’antaは、ブラジル産のマメ科植物。よく蜂蜜に使われる、アカシアやクローバーといった花蜜をイメージしていたが、植物エキスにはあまりメジャーでない植物も使われ、意外な組み合わせで配合されていた。

フルクトース、グルコース、グルコン酸も、植物由来であるが、具体的な原料はここでは不明。どんなものからできているのか?気になるところだ。

そして、やはり気になるのは、精密発酵(precision fermentation)技術を使うところで、これは賛否が分かれるところ。精密発酵には微生物をゲノム編集技術等によって加工する工程があり、いわゆる“遺伝子組み換え微生物”を培養することで、動物性タンパク質などの特定の機能性成分の生産が行われる。代替肉や乳製品などでは既に商品として流通しているものもあって、蜂蜜に関しては本品が初めてだ。

“Bee Free” “Plant Based Honey”といったワードを見ると、動物由来不使用なんだなというのは伝わるが、原材料表記を見ただけでは、原材料が何から出来ていて、どうやって作られているのかまでは消費者にはわからない。現在、精密発酵技術が使われていることは表示義務が無いので、パッケージにあえて明記する必要もない。

また、もしパッケージ等に表記されたとしても、日本ではどうしても“発酵=カラダに良いもの”というイメージができてしまっているので、“精密発酵”の後ろの2文字が、意図していない優良誤認を生んでしまう懸念もある。

気になる味の評価は?

実際に試してみると、ホンモノの味再現度にびっくり!蜂蜜特有のねっとりとした感じもちゃんとある。口に広がる香りや食べた後に残る風味も蜂蜜そのもの!言われなければこれがプラントベースだとは全くわからない、衝撃の味だ。実際に市販の安価な蜂蜜と食べ比べてみたら、正直なところ、むしろプラントベースハニーの方が美味しいと感じたほどだ。

天然の蜂蜜には百花蜜のように複数の花から採れたはちみつもあれば、1種類の花から採れた単花蜜もある。料理にあわせて選ぶ単花蜜や、桜の花のように日本の四季を感じるような蜂蜜、世界中の花の蜂蜜なんかも、簡単につくり出すことが可能になるのかも。

この記事を書いた人

オーガニックプレス編集長 さとうあき

インターネットが急速に世に広まりつつあった2002年、長年身を置いてきたオーガニック業界からEC業界へと転身。リアル店舗時代からIT化時代の変遷、発展への過程を経験し、独自の現場的視点をもつ。2010年、業界先駆けとなる“オーガニック情報サイト”誕生を実現した。「オーガニックプレス」はその確かな目で選択された情報を集約し蓄積。信頼性の高いコンテンツを提供し続けている。

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